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イノベーションの本質

2014年6月25日 CATEGORY - 代表ブログ

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皆さん、こんにちは。

突然ですが、イノベーションの定義って分かりますか?

当然のことのように、イノベーション=変革、革新だと思っていたのですが正しくは、【物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。】(ウィキペディア

そして、これは1958年の経済白書においてイノベーションが「技術革新」と訳されたことに由来するといわれており、実際には、【一般には新しい技術の発明と誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。】(同じくウィキペディア)のだそうです。

私もその一人でしたが、日本においてこの誤解はかなり一般的ではないかと思います。

先日、このイノベーションという考えに対してものすごく分かりやすく解説をしてくれている本に出合いました。「イノベーションの本質」という本です。2004年に出版されているので少し古いですが、その本質を捉えるには全く問題ありませんのでお勧めです。

本書では、13もの実際の企業が行ったイノベーションの事例を取り上げてその本質に迫っているのですが、その中で最も印象に残ったサントリーの「DAKARA」の例をご紹介したいと思います。

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1996年に開発がスタートしたのですが、当時はいわゆるスポーツドリンクとして大塚製薬のポカリスエット、コカ・コーラのアクエリアスの二つで市場の90%が占められており、他社が入り込むすきなどないといった状況でした。

そんな中での開発スタートですが、サントリーのプロジェクトチームはある鉄則を決めてことにあたることにしました。それは、

「本当に競争力のある商品を作るために、コンセプトを決めるまでは絶対に手を動かさない」というものです。つまり、「むやみにネーミングを考えない」「むやみにデザインしない」「むやみに中味をを作らない」という、プロジェクトに集まったプロ集団に仕事をさせないというルールです。

まずは、「市場に認められる本当に競争力のある商品コンセプトはなにか」を見つけることに命を懸けようということでした。

そこでまず、市場調査として消費者アンケートを行います。ポカリとアクエリアスという二強スポーツドリンクの利用シーンを聞くというものです。そして、予想通り「スポーツの合間やその前後」という答えが76%という結果だったそうです。

市場の声を聞き、その結果を製品開発に反映させるマーケティングの定石を踏むべく、やはり製品コンセプトは、二強も抑える「スポーツ」とともにそれらの取りこぼしている「ドリンク剤」的な要素も加えて「もうひと踏ん張りできる働く男のスポーツドリンク」というものに決まりそうになりました。

ここまでの段階で2年の歳月を費やしています。鉄則を守り、しっかりとした商品を作ろうと思ったからです。しかし、チームには、それでもそのコンセプトになんとなく「冷たさ」を感じていたそうです。

そこで、もう少し粘ります。この違和感が何なのかを突き止めるために、今度は市場調査として消費者アンケートではなく、対象者に「毎日、いつどの飲料を何と一緒に誰と飲んだか」を克明に描いてもらう方法をとりました。時にはメンバー自らがその対象者に密着してまで行ったといいます。

その結果、分かったことがあります。それは、アンケート調査で76%あった「スポーツの合間やその前後」の利用が、わずか18%しかなく、二日酔いや仕事の合間のほうが圧倒的に多かったという予想外の結果です。

つまり、スポーツドリンクは実はスポーツドリンクではなかったという事実です。消費者も生産者も「スポーツドリンク」というイメージの呪縛にとらわれていいただけで、あの「違和感」はそのイメージの「ズレ」を微妙に感じていたということです。

この「ズレ」の背後にあるいわゆる「もやもや」が何なのかを明らかにすることをおろそかにしないということが非常に重要です。

この「もやもや」のことを暗黙知といいます。「暗黙知」とは、言葉や文章で表現することが難しい主観的な知で、個人が経験に基づいて暗黙のうちに持つものです。

それに対して「形式知」とは、言葉や文章で表現できる明示的で客観的な知のことです。つまり、最終的なコンセプトを決めるということは、「暗黙知」を「形式知」に変換するという作業であるということになるわけです。

サントリーのこのプロジェクトを見ていると「暗黙知」を「形式知」に変換するという作業がどれほど難しいか、そしてどれほど重要かということが非常によく分かります。

チームは二年かけて導き出しそうになった「もうひと踏ん張りできる働く男のスポーツドリンク」というコンセプトを捨て去り、暗黙知を「真のコンセプト」という形式知に変換すべく再び奮闘することになります。

その結果、スポーツドリンクのように「不足分の補充」ではなく、二日酔いに代表される「食生活の乱れ」による「余剰分の排出」に重点をおく「ちょっとツライとき不摂生不規則な生活から現代人のライフを守ってくれる、ちょっと頼りになるからだ・バランス飲料」という「真のコンセプト」が誕生したのです。

このストーリーに触れたことで、私のイノベーション観も大きく影響を受けました。イノベーション、つまり【物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。】を実現するためにはまさに、この暗黙知を形式知に変えるためののたうち回るほどの知的奮闘が必要なのだという理解です。

ウォークマンやi-Padのコンセプトを「顧客との対話」にて導き出すことはできません。なぜなら、顧客は既存の製品しか知らないので、今ないものについて聞かれても考えられないからです。

イノベーションの本質は、『新しいものやことを「新しい」組み合わせによって作り出すために「自分たち」で仮説を作り検証することを、「もやもや」(暗黙知)が「真のコンセプト」(形式知)に変換されるまで諦めずに繰り返すこと』と見つけました。

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