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好きなようにしてください

2016年6月10日 CATEGORY - 代表ブログ


好きにしてください             

皆さん、こんにちは。

もう何度もこのブログでご紹介している、私が心から尊敬する経営学者である一橋大学の楠木建教授の新刊が出ましたので早速購入し読んでみました。

タイトルは、「好きなようにしてください」というとても経営学者が書いたとは思えないものです。

この本の内容は、読者からの仕事を中心とした悩みに関する質問に教授が答えるという内容のものです。そして、楠木教授は、究極の本音ベースでしかものを書かない学者ですので、多くのやり取りは単に「肯定」や「慰め」がほしいだけの質問者には届かないだろうなと思いました。(笑)

それにしても、教授を心から尊敬する私にしてみるとその本音ベースの文章が本当に気持ちがいいのです。そしてその本音は、本質を抉り出します。

つまり、経営の「研究」というもやもやしたものから、その根底にある肝を普通の言葉にして提示するのが恐ろしく上手だと思うのです。 今回は、そんな教授の新刊から特に印象に残ったものをいくつか書いてみます。

一つ目は、「研究職」という仕事についての教授の考えです。

あの小保方事件を例に非常に辛辣にそして分かりやすく書かれています。

「この事件の報道で嫌だったのがこのチンケな話を無理やり一般化した言説のもろもろ。『多くの研究者が真摯に仕事をしているのに、こんな事件が起こるとアカデミズムに対する社会的な信頼を壊す。』というもの。僕に言わせれば、『こんなくだらないことにいちいち目くじら立てず、自分が正しいと思うやり方で粛々と自分の研究をやっていればいいんじゃないの、別に、、、』と思うのですが、とりわけいやな感じなのが、これに続いて出てくるこういう主張であります。『こういう問題が出てくるのは、若手研究者が功を焦るからで、なぜそうなるのかというと、研究社会の競争主義が行き過ぎているからで、なぜ行き過ぎるかというと、研究に投入される資源が少なすぎるからで、なぜそうなるかというと政府や自治体が研究や高等教育に対する資源配分が少なすぎるからで、したがって研究者はもっと手厚く遇されなければいけない、学位をとっても生活できない研究者が多すぎる、高学歴貧困の存在は文化的貧困だ、責任者出てこい』。科学者でもないのに、僕のところにもこういう方向でのコメントを言わせようとする取材が来たので、『え~、僕は全くそういう風には思いません。僕の考えを話すと長い話になりますが、それでもいいですか』というと、『え、あ、別に結構です。』ということになりました。」

ここに書かれた「長い話」を要約すると次のようなものです。

「研究」という職種は、そもそも

①ふわふわしている(世の中の超間接業務。虚業中の虚業。)

②人間の本性の発露(「知る」「考える」「伝える」は自然にやりたくなる活動)

③以上の自然な帰結として、慢性的に供給が需要を大きく上回る。(そもそも仕事としてやりたい人が多すぎるため、その数に対してその研究に継続的に対価が支払われる仕事の数は相対的に少ない。)

つまり、好きでその仕事やってるんだろう?いやならやめればいい話で、好きでやっている人に対して、政府が金云々は、全くもって本質からずれているというものです。 この話を聞いてしまうともう、その手のコメントが言い訳にしか聞こえません。

この世に、結果が出せない野球選手の給料が少ないことを社会問題化することがあり得ないのと同じくらいあり得ないというわけです。また、この状況から這い上がるようなガッツがなければ、科学は進歩しません。

成果は競争が大前提で創り出されるものであり、補助金漬けの業界からは良いものは生まれないというのは、経営学では当たり前でしたね。

そして、もう一つ印象に残ったのは、そのようなふわふわした「研究職」を仕事に選んだ人が目指すべきところも、しっかりと本質を抑えて伝えてくれているところです。

それは、「蛇の道は蛇」ということです。

つまり、結局のところ「そのことを長く続けてやっているかどうか」というところに尽きるということです。これこそが、ふわふわした「研究職」という仕事を一生の仕事に選んだ人間の世の中に対する存在意義の主張だと思いました。

この点を、教授の好きな「刑事コロンボ」のセリフの引用で絶妙に表現されています。 刑事コロンボでは、犯人はたいてい上流階級のインテリと決まっています。ハンサムでお金持ちで頭もよく才能にあふれている。それに対するコロンボは一見風采が上がらない小柄な中年のイタリア移民です。その設定で、コロンボは山場のシーンで次のようにつぶやくのです。

「確かにあなたは、生まれも育ちも、才能も頭の良さも私とは比べ物にならない。そういう完璧なあなたが全知全能を絞ってアリバイ工作をした。それを崩すのは確かに難しい仕事ですよ。ただね、そんなすごいあなたでも、さすがに殺人は初めてでしょう?私はね、殺人課の刑事なんですよ。何十年も毎日毎日、殺人事件ばかり追いかけている。これまで犯人を何人上げたか分からない。それが私の仕事なんですよ、コロシがね、、、」

楠木教授の顔が刑事コロンボに見えてきました。        

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