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「渋滞学」にみる学問の本質

2016年7月31日 CATEGORY - 代表ブログ

渋滞学

皆さん、こんにちは。

このブログにて、学問と実社会との橋渡し役としての役割を素晴らしく果たしている学者として、一橋大学の楠木建教授を頻繁にご紹介していますが、実は先日、もう一人素晴らしい役割を果たされている方の講演を聞くことができました。

「渋滞学」という学問を自ら立ち上げられた東京大学の西成活裕教授の講演です。

そもそも渋滞、特に高速道路での渋滞というのは、その存在自体が不思議なものです。

というのも高速道路には、基本的に信号などの障害物がないため、渋滞、特に完全に止まってしまう渋滞が生じることはあり得ないのではないかと私は子供のころから思ってきまして、渋滞の先頭はどうなっているのかヘリコプターか何かで見てみたいとずっと思ってきました。

しかも、すこし前までは、「料金所」が唯一の障害として存在していましたが、現在ではETCによって、それさえも排除されています。にもかかわらず、現在でも渋滞が存在しているのです。

そこで、西成教授は、全国の高速道路の交通量と交通密度に関する情報を集め、そのデータをグラフ化しました。そのグラフは、ある交通密度に達するまでは、交通量も順調に多くなりますが、ある一定密度を超えると、交通量が下がるという形を示しました。

まあ、これが普通に「渋滞」が発生したということのグラフ上での証拠になるのですが、実はその一定密度を超えても、少しだけ順調に右肩上がりに伸びているグラフを作る高速道路が一つだけあったそうです。

それが、首都高です。

これが何を意味するのかということを理解するまでに、数年を費やしたそうです。そして、これこそが、「渋滞」の本質だったのです。

首都高とそれ以外の高速道路との一番の違いは、「緊張感」です。道幅は狭いし、分岐も多い、そのため自然と車間距離は普通の高速道路と比べて、デフォルトで狭くなります。しかし、常にそのような状態が続いていますので、それが全部事故につながるわけではないので、上記のような「一定密度を超えても、少しだけ順調に右肩上がりに伸びているグラフ」になると言います。

これを教授は、「メタ(準)安定状態」と名付けました。準安定ですから、安定のようで安定ではない、つまり、ちょっとでも何か引き金になるようなこと、例えば先頭車両のちょっとした急ブレーキなどで、一気に渋滞が発生することになるような状態です。

であるならば、渋滞をなくすためには、そのような状態にならないギリギリのところで、ストップをかけることが重要だということになります。そのストッパーの役割を果たすのが、「車間距離」です。

教授は、上記のデータから、車間距離40メートルというのが、そのギリギリの数値だと割り出しました。

つまり、全ての車がこれさえ守れば、事故がない限り渋滞は起きないということです。にもかかわらず、人間は、どうしてもスピードを落とすことで、何か損をしたような気がしてしまい、車間距離を詰めてしまいます。その結果、渋滞を引き起こし、大損をしているということになります。

この点、教授の研究で面白いものをご紹介いただきました。このことを完全に体得している尊敬すべき生物「アリ」です。

アリは、よく巣に食べ物等を運ぶために、長い隊列を組みます。しかし、世界中、どこのアリも、どんなに隊列が長くなっても、絶対に止まったりしない、すなわち「渋滞」を引き起こさないそうです。

その理由がまさに、この車間距離(アリ間距離?)です。隊列の中の数が多くなっても、絶対に詰めないそうです。その代わりにスピードを落とします。でも、全体で考えたら、詰めて渋滞を起こして大損するよりも、一匹一匹がスピードを落としてでも車間距離をとっていた方が、確実に良い結果を手に入れることができるのです。

人間がいまだにできないことを、アリは世界中例外なく、できているのです。なぜ、アリはできて人間はできないのか。それを、教授は「種」としての歴史の違いだと言います。

人間が地球に生まれてから、まだ25万年なのに対して、アリは2億年です。

なるほど、と言わざるを得ません。

ただ、西成教授が発見したこの「渋滞学」における知見は、今後確実に自動運転技術の中に組み込まれるでしょうし、現在実際にカーナビに車間距離維持のアラートが組み込まれているものも出てきているそうです。

このことから、学問の本質とは、他の先輩生物が長い時間かけて身に付けたものを、人間の知恵の力によってできるだけ短縮することでもあるのかなと思いました。

それは、他の生物だけではなく、私たち自身の体の仕組みを含めた自然界全ての知恵というべきかもしれません。

若輩者の人間のできることは、非常に限られていると思いますが、そのような方向性を見出してくださった、西成教授の目の付け所には脱帽です。今後、楠木教授とともに敬意をもってフォローさせていただきたいと思います。

 

 

 

 

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