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なんで英語やるの? #44

2014年5月10日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介

なんで英語やるの

 

 

 

 

 

 

 

 

【書籍名】 なんで英語やるの?

【著者】  中津 燎子

【出版社】 文春文庫

【価格】  ¥380 + 税

【購入】    こちら

著者の中津燎子氏は3歳から12歳まで父親が外務省の職員だったことからソビエト連邦のウラジオストクで過ごし、戦後帰国、GHQの特別電話局で働き、その後、米国留学。1974年に本書『なんで英語やるの?』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞されています。英語教育に発音訓練を取り入れた英語音声教育のパイオニアでもあります。

私は、日本人の英語習得における発音の重要性をどちらかと言えば重要視しない立場をとってきましたので、著者の本書の存在を知ってはいましたが、あまり気が進まずに今まで読まずにきました。

今回、縁あって本書を手にして何とはなしに読み始めたのですが、途中から著者の日本人としての英語との付き合い方に対する哲学が素晴らしいということに気づかされてしまい、吸い込まれるような感覚に襲われるほどでした。

特に、幼児教育と英語に対する視座は大変素晴らしいものです。その卓越した見方は以下の言葉に凝縮されていると思います。

「言語というものは、単なる平板な知識として子供の身につくのではなく、子供の小さな世界の必需品として安定した地位と音とイメージを持つとき、盤石の重みがあるのではなかろうか。二つの言語を同時に、その感覚も、意味も、応用も、状態も、いっさいが頭に入るということは、その子がおかれた社会環境と切っても切れぬほど強く、非常に強く関わりがある。(中略)日本中の子供が英語と日本語を使用し、楽しんでいるような時代になるとは到底思えない以上、私はただ一つのことを言うことしかできなかった。『日本人として、まず、十歳ころまでは日本語だけで人間形成するべきよ。』」

英語教育の低年齢化の議論においてここまできめ細かく、生々しい人間の感覚の部分にまで迫ってストップをかける言葉を昨今は目にしたことはありませんでした。

この生々しさは、本書の中でも少し触れられていましたが、自らの3歳から12歳まで過ごしたソビエト連邦のウラジオストクでの生活の中での著者の実感からくるものだと思われます。

かつてランゲッジヴィレッジでも近隣の子供たちを対象にキッズ英会話をやっていた時期があります。ただし、この企画のポイントは「子供たちに絶対に英語を勉強と認識させない」というものでした。

子どもたちは、週に一回ランゲッジヴィレッジにやってきて、外国人講師とただ戯れるだけの一時間を過ごした後、その講師と一緒に夕食を食べて帰る。

これだけです。決して単語を意識的に覚えさせたり、宿題を出すなどは絶対にしませんでした。

英語を生活と融合させる環境を常時維持している場所だからこそ、「子供たちに絶対に英語を勉強と認識させない」状態を有意義に作り出すことができると思ってのことです。しかし、この企画は長くは続きませんでした。

事前にこの「絶対に英語を勉強と認識させない」という趣旨の説明をしつこいくらいにするのですが、「あっちの教室では単語をいくつも覚えて帰ってくるのに、ランゲッジヴィレッジではただ遊んでいるだけではないか」という苦情が必ずと言っていいほど一定割合の親御様から上がってしまうのです。

私も実感として著者と同様の考えを理解していたつもりでしたので、それならばこの企画を廃止するしかないという判断をせざるを得なかったのです。

著者のここまで鋭い分析に裏打ちされた言葉が、1970年代という遥か昔に活字となっていたということになります。そして何より著者は「子供たちに絶対に英語を勉強と認識させない」英語教育をやりきりました。このことから、著者に対する尊敬の念と、英語教育界に対する憤りに近いものを同時に感じざるを得ませんでした。

これによって、私の日本人の英語習得における発音の重要性への認識が現時点において変わるものではありませんが、少なくとも冷静な思考の下に、英語音声教育に関する知識を見直す機会を持ちたいと思いました。