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歴史を変えた誤訳 #53

2014年6月7日 CATEGORY - おすすめ書籍紹介

誤訳

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【書籍名】 歴史を変えた誤訳

【著者】  鳥飼玖美子

【出版社】 新潮文庫

【価格】  ¥476 + 税

【購入】    こちら

「(外国語能力の根本的な欠如もしくは理解力、表現力の不足によるものは論外として)誤訳の大半は言語レベルを超えた異文化の理解度に由来する。」

このことについては、著者が指摘するまでもなく実感できることだと思います。また、この書籍紹介でも#47「バイカルチャーと日本人」でもその点については触れました。

本書には、指摘される異文化理解の不足を原因とする「世紀の誤訳」の例が豊富に紹介されています。

日本人は面と向かって拒絶することを嫌い「慎重に検討します」的なやんわりとした表現を用いて相手がその表現の中に「断り」の意味を感じ取ってくれることを期待するような言語姿勢を持っています。

例えば、「善処します」という表現。(外交に限らず国内の世論をまとめるときにも、いわゆるお役所言葉としてあえてあいまいにしておくという言語態度として利用されます。)

これは日本人にとっては、よい結果が得られる可能性が50%もしくはそれ未満だと感じられる表現です。しかし、訳すとすれば、「I will do my best. 」や「I will examine it in a forward looking manner.」という具合にならざるを得ず、「前向きに」というポジティブな語感を相手に与えることになります。

ですから、当然にして日本人以外の外国人がその表現の中に「断り」の意味を感じ取ることは非常に困難です。

これを外交手法として意図的に言語ギャップとして利用することも考えられなくもないですが、基本的には外交においては「ミスコミュニケーション」をもたらす原因になります。

この点については #49の「論争・英語が公用語になる日」において以下のことが指摘されていたことからも納得できます。

「英語が日本の第二公用語になるということは、すべての公文書において、日本語での主文に英語での副文が添えられることになるわけです。その効果として、日本語から英語に翻訳不能なあいまいなお役所用語が完全に排除されることになるのです。」

このような言語姿勢を日本人独自の文化的個性として今後も大切に温存させるべきか、アイデンティティの問題までも含めて真剣に考えていくべきかと思います。

英語を公用語にするかどうかというようなドラスティックな変革まで行かなくとも、今後グローバル化が加速度的に進んで行く中で、日本がいつまでもこのような「非効率さ」を構造的に抱えながら生き延びていくことができるのかという危機感を日本人として持っていなければならないことは間違いないと思います。