日本人と英語

なぜゲルマン人は「騒がしい人」なのか

2025年3月13日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語は語源×世界史を知ると面白い」からテーマをいただいて書いていますが、第二回目のテーマは「ゲルマン」の語源です。

ゲルマン人、ゲルマン語、ゲルマン系など英語に非常にかかわりの深い「ゲルマン」という言葉ですが、本書にはこの語源に関してとても意外な内容が書かれていました。

以下、要約引用します。

「ゲルマン人(Germanic peoples)という言葉は古代ローマの将軍カエサルが『ガリア戦記』の中で、ガリア北東部(現在のドイツの一地域)のゲルマニア(Germania)に住む一部族を表したGermani(ゲルマン人)に由来する語である。この言葉はラテン語でもゲルマン語でもなく、ケルト語で『騒がしい』や『隣人』を表す語でケルト語から派生した古アイルランド語で『叫ぶ』のgarimや『隣人』のgairと同系語。このことからGermaniは自称ではなく他称であったことが分かる。そして、German (ドイツ人、ドイツの)という英語は当初、『ゲルマニア人』を表す語としてラテン語経由で英語に借入され、1520年代から『ドイツ人』の意味で使われるようになった。それ以前、『ドイツ人』を表す英語はAlmain (アルメイン)やDutch(ダッチ)が一般的であった。Dutchが『オランダ人』や『オランダの』の意味で使われるようになるのはオランダ独立戦争後の17世紀中頃のことである。」

「このことからGermaniは自称ではなく他称であったことが分かる。」という部分について少しだけ考察します。

かつてこのブログで「スラブ人は自らを『奴隷』と呼んでいるわけではない」という記事で次のように書きました。

「つまり、『スラブ』という言葉自体に奴隷という意味があるのではなく、『スラブ(言語・民族)』という誇り高い意味を持つ民族の名前が、たまたま過去の歴史の中で『奴隷』にさせられたばかりに他の人々によってその代名詞のように呼ばれてしまっただけということになります。ただ、もともと自らの民族名として誇りをもって自称する『スラブ』を、歴史における他人の悪意からそのような意味が付加されたことを理由に捨ててしまうなど、スラブ民族として許せることではないはずです。」

このスラブ人の「スラブ」はもともと誇り高いポジティブな意味を持つ言葉でもちろん「自称」ですが、その歴史の中で他人の悪意から「奴隷」という意味が付け加わったにもかかわらず、それによって自らの呼び名を変えることはしなかったということ。
 
一方で、ゲルマン人の「ゲルマン」はあくまでもケルト人という別民族の言葉で「騒がしい」というネガティブな意味での「他称」だったわけですが、ラテン語経由することでそのネガティブさが薄められたかどうかは分かりませんが、ゲルマン系の英語においてもその他称を自称に使用することになったということです。
 
その意味でいえば、違和感としては「スラブ」よりも「ゲルマン」の方が圧倒的に大きいです。
 
ただ、ここでケルト人とゲルマン人の歴史を踏まえると、ケルト人がゲルマン人を「騒がしい人」としたことはスラブ人を多民族が「奴隷」と呼んだような「悪意」とは性質がかなり異なることが分かります。
 
その歴史について以下のような記述がありました。
 
「ケルト人はもともとユーラシア大陸のアルプス以北のヨーロッパに住んでいたが、全8世紀ごろからゲルマン人の侵入によって西はガリア(フランス)、イベリア(スペイン)、ブリテン島、東はギリシア方面などに逃げるように広がっていった。」
 
つまり、ケルト人にとってゲルマン人は「侵略者」であって、文字通り「騒がしい隣人」であったわけで、悪意も何もそのままの表現を当てたまでで、それをラテン語経由とはいえ、そのまま受け入れたゲルマン側は文句の言いようもないといったところでしょう。
 
言葉の歴史とは本当に面白いものです。
 
 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆