外国語学習には「コダワリ」が重要だ
2024年9月9日 CATEGORY - 日本人と英語
書籍紹介ブログにてご紹介した「外国語を学ぶための言語学の考え方」は著者に言わせると、
「外国語学習全般にとって重要な『言語学』に関する知見を、あれこれ盛沢山に、とはいえクドくならないよう隠し味程度に抑えながら紹介したもの」
ということですが、私が本書を読む中で最も印象的だったのが、著者の言語全般に対する「コダワリ」の強さでした。
書籍紹介の中で書いたように、「外国語学習を料理に例えると『語彙』は『食材』、『文法』は『調理法』ということになり、それぞれ一つずつががなければ成り立たない」ということを示しつつ、それに続けて「料理は食材と調理法に加え、スパイスが絶妙に組み合わされた時、最高においしくなる。言語学はまさにそのスパイスだと言える。」という名文を書かれていました。
実際に本書を読んでいくと、なぜ「言語学」が外国語学習に関わるスパイスであると著者が言ったのかがよく分かりました。
それは、本書で明らかにされている一つ一つの言語学の知見が、「コダワリの種」として著者によるツッコミの起点になっていることに気が付いたからです。
今回は本書の中で著者の「コダワリ」の強さが最も出ていると思われる箇所を引用することで、結果的に外国語学習における「コダワリ」の重要性をお伝えできればいいなと思います。
それは「アルファベット」という単語の意味の範囲についてでした。
「日本語のカナは、どんなに工夫したところで外国語の音を示すのがほとんど不可能なのである。それは文字の種類に原因がある。原則として一つの文字が一つの音に対応する体系を言語学ではアルファベットという。一つの音ということは、a、b、、c のように子音と母音が別々に示せることが条件だった。だからラテン文字に限らず、ギリシア文字やキリル文字や、ヘブライ文字や、アラビア文字など、アルファベットであればどれでも大丈夫であった。このような文字を種類として単音文字という。原則として、アルファベットは短音文字ということになる。だが、ひらがなやカタカナは、ほとんどの文字が子音と母音の組み合わせである。こちらは音節文字という。つまり、日本の外国語参考書は、カナのような音節文字を使って、ラテン文字のような短音文字の音を示そうとしているのである。子音と母音がほぼセットになっている文字で、子音だけをどうやって示すのか。問題はここにある。」
なるほど、私を含めた多くの指導者は「英語単語帳にカタカナで発音を書き込んではいけない。」という指示をします。
しかし、その理由としてはほとんどの場合、「発音が正確ではないから」ということしか挙げずに、「発音記号」を覚えることを勧めます。
私の場合、実際には次のような「発音指導」をするようにしています。
「発音記号のうち日本人が『頑張ってできる』ものと、『頑張ってもできない』ものに分け、前者のみを徹底的に分かりやすく解説するという方法をとっているからです。そして、その『頑張ってもできない』ものに『英語の母音(特にアとオに近い発音)』は分類されているのです。ただ、そうはいってもそれを完璧にできなければ『通じない』ということであれば、それは大問題なのですが、それは全く問題がないと体験的に理解しており、その自信によってバッサリ切り捨ててきました。」
つまり私は「発音」の正確性としては最初からあきらめているわけで、その上でなお発音の正確性を理由として「英語単語帳にカタカナで発音を書き込んではいけない。」という指示を出すことは、的を射ていないことになるということに気づいてしまったのです。
では、本来添えるべき「英語単語帳にカタカナで発音を書き込んではいけない。」という指示の理由とは何か、それが
「日本の外国語参考書は、カナのような音節文字を使って、ラテン文字のような短音文字の音を示そうとしているのである。子音と母音がほぼセットになっている文字で、子音だけをどうやって示すのか。問題はここにある。」
ということでしょう。
なるほど。
このように本書では、言語学の知見が、「コダワリの種」となって、著者によるツッコミの起点となり、「英語単語帳にカタカナで発音を書き込んではいけない。」という指示の正当性をきちんと明らかにしてくれているというわけです。
著者の言う「言語学はまさにそのスパイスだ」の真意を体感的に理解できた瞬間でした。