
スキーマとともに単語を学ぶ必要性
2026年6月8日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログでご紹介した「アブダクション英語学習法 #366」からテーマをいただいて書いていますが、第三回目のテーマは「スキーマ(schema)の理解とその重要性」についてです。
まずはこの「スキーマ」とは何なのかについて本書より該当部分を引用します。
「文章の理解に必要なのは、単語の知識だけではありません。その内容の背景にある体系的な知識(認知科学の世界ではこれを『スキーマ』と呼びます)も併せて必要になります。例えば、『うどんのコシ』について、うどんに関わる身体的な経験をほとんど持たない外国人が、多聴・多読だけで理解できるようになるのは無理です。コシがあるうどん、コシがないうどん。コシが『ある』『ない』という二つの言葉を知っていれば分かるわけではありません。実際にうどんを何回も何回も食べることで『ちょっとコシが足りない』『全くコシがない』など、言葉では表しきれない微妙な違いが、感覚的に分かってきます。それが『うどん』という単語について、質の高い豊かなスキーマを持っている状態というわけです。」
ではどうやって、日本語を母語とする私たち日本人が、外国語としての英語学習において、英単語を習得する際にもこの「うどんのコシ」的なところまでのスキーマと併せてその知識を獲得できるのかについて、以下本書の内容を要約してみたいと思います。
新しく英単語を辞書で引き、例えば「happy=うれしい」と分かったとします。
しかし、この意味は「点」でしかありません。
実際にこの「happy」という単語を使うには、この単語が使われる構文の知識が必要ですし、この単語がどういう状況で使えるものであり、逆にどういう状況では使えないかも知らなければなりません。
ある人が「I am happy.」という文の中でこの単語を初めて知った場合、「ああ、happyという英単語は、『私はうれしい』ということを表現するのに使える」と受け取るのが普通でしょう。
しかし、他にどういう状況で使えるのか、そして、happyがどのような意味を許容し、どのような意味を許容しないのか。どこまでその意味を拡張できるのか。そういったことは分からず、ただ「推論」するしかありません。
その結果、私たち日本人は「手紙をもらえるのはうれしい。」と言いたいときにも「happy=うれしい」のであれば、当然にして「Getting a letter is happy.」と推論してしまいがちです。
しかし、happyを叙述的に利用する場合(叙述用法)には「主語がうれしい(と感じている)」という意味でしか使えないというスキーマが存在していることから、「手紙をもらえること」という主語は「うれしい」と感じる主体ではないため、「Getting a letter is happy.」は明らかに間違いとなってしまうのです。
(これ以下は本書にはなく私独自のものです)
ただし、このようなスキーマを学んだとしてもまだ問題があります。
それは、happyが「主語(この場合は被修飾語)がうれしい(と感じている)」という意味でしか使えないのであれば、たとえばhappy experienceなどの形もexperienceが「うれしい」と感じる主体にはなりえないので、間違いだということになってしまうと「推論」してしまうことです。
ですが、「人をうれしくさせる〇〇」というように、名詞の前において修飾する方法(限定用法)においては、このような形で表現されるというのが英語におけるスキーマなのです。
このように、スキーマとともに単語を覚えないと「非常に奇妙な英文になってしまう」という問題は、英作文トレーニングの段階に入ると、非常に頻繁に生じてくるもので、指導者の側にもこのスキーマが強く求められます。
ここでは、私の主宰する「文法講座」の英作文作成トレーニングにおいて頻繁に作られる日本語と英語のスキーマの違いから生じる間違いをご紹介します。
SVOの日本文を考えて、それを英語に直すという問題に対して、
①「私は夕食をおいしくいただきました。」という日本語を作り、「I ate dinner deliciously.」という英訳。
②「彼女は数字をきれいに書きました。」という日本語を作り、「I wrote a number beautifully. 」を自信をもって作ってくれる方が非常に多いです。
上述の通り、英語のスキーマでは「delicious」や「beautiful」は主語が「主語が○○(と感じている)」という意味でしか使用できないもの、つまり「私が食べてそれを美味しいと感じた」もしくは「私が書いた字を美しいと感じた」というものになります。
ですから、もし受講者が「私は夕食をおいしくいただきました。」という内容を伝えたいのなら「I ate delicious dinner.」と言うべきだし、「彼女は数字をきれいに書きました。」なら、「I wrote a beautiful number. 」と言わねばならないのです。
そして、もし「I ate dinner deliciously.」を無理やり日本語に直そうと思っても、副詞deliciouslyは動詞eatをどうやっても意味的に飾ることができないので日本語では作文不可能です。
また、「I wrote a number beautifully. 」を日本語に直そうと思ったら、副詞beautifullyは動詞writeを意味的に飾らなければならなくなるため、「私が(踊りながらなど)美しく数字を書いた」というようなちょっと不自然な日本語をまず作らざるを得ないのです。
このことについて実際の講義で指摘しても、スムーズにご理解いただける回はほとんどなく、かなり説明に時間をとられてしまうことが多く、この日本語と英語のスキーマの違いの「根深さ」というものを改めて感じさせられました。








