「先住民」は英語で何と呼ぶべきか
2022年3月31日 CATEGORY - 日本人と英語
書籍紹介ブログにてご紹介した「英語の新常識」からテーマをいただいて書いていますが、第五回目のテーマは「(アメリカの)先住民」の人々に対する呼称についてです。
第三回目の「黒人は何と呼ぶべきか」で見たように、アメリカの内政の歴史は、ほとんど「人種間の歴史」でもあると言え、マイノリティ(少数派)に対するマジョリティ(多数派)側の「呼称の変遷」の歴史とも言い換えることができますが、一般的に想起されるマイノリティの中に「黒人」とともにまず入ってくるのが「先住民」です。
以下に、アメリカ先住民の呼称の変遷について本書の内容をまとめてみます。
私たちが「(アメリカ)先住民」に対する呼称として一般的に「問題がある」と認識されているものに、「インディアン」という呼称があります。
これはアメリカ大陸を「発見」したコロンブスがその場所を「インド」であると信じきっていたために、すでにその場所にいた彼らを「インディアン」と呼んだことに由来しているとして、そもそも「インド人」ではないという意味と、先住民にとっては「征服者」であるコロンブスによる命名であることから、差別的な呼称とされてきました。
そこで次にその代わりとして用いられたのが「native Americans(先住のアメリカ人)」という呼称です。
これは今でも一般的に使用される呼称であり、一見問題がなさそうに思われがちですが、実は当事者である先住民の方々にとってはあまり好ましいものではないと考えられているそうです。
というのも、「アメリカ」という名前はイタリア出身で探検家にして地理学者であるアメリゴ・ヴェスプッチに由来します。
コロンブスはあくまでもアメリカ大陸に一番最初に到達したヨーロッパ人ではありますが、そこを「インド」であると誤解してしまいました。
一方でアメリゴ・ヴェスプッチは三度にわたる大西洋横断調査の結果をまとめた『新世界』を刊行し、大西洋を横断した先にあるのはインドではなく、全く異なる新大陸であることを指摘した人物です。
その意味で「native Americans(先住のアメリカ人)」という呼称は「インド人」という誤解にもとづく由来という問題は解消された分、かなり一般的に使用される呼称ではありながら、それでも征服者側に由来する名前であるという問題は解消されていないと考える「先住民」の人々もいると言います。
その意味で、完全に彼らの立場に寄り添った形でこの問題を解決するために提案された方法が、「総称」ではなく具体的な部族の名前(Cherokee, Iroquois, Navajo, Apache, Sioux, Cheyenneなど)を使って呼称するというものです。
もともと、ヨーロッパ人が来る前は、彼らはそれぞれが独立した国家のような存在だったわけであり、後から来た人々によって十把一絡げに「native Americans(先住のアメリカ人)」などと呼称されることは考えられないというのが正直なところかもしれません。
具体的な部族の名前を呼称とするのは、現在のアメリカのマジョリティはもちろんのこと、第三者である我々日本人にとってもかなり厄介だと感じてしまうのが正直なところですが、これこそが本来あるべき最も適切な形だろうと理解することができます。
やはり、黒人の方々が「奴隷の歴史」を重要視するのと同様、先住民の方々はコロンブスがアメリカ大陸を発見して以来、白人による大量虐殺の歴史を背景に自らのアイデンティティを追求せざるを得ない以上、これは避けて通ることのできない問題であると思います。