
なぜ楽器には必ずtheがつくのか
2017年8月23日 CATEGORY - 日本人と英語
三回にわたって「英語冠詞大講座」から英語の冠詞の性質について考えてきましたが、四回目の今回がこのテーマについて考える最終回です。
今回ご紹介するネタは、皆さんの長年の謎を見事に解明してくれるものだと思います。
「He can play the piano.」
そうです、とにかく楽器が出てきたら、冠詞は必ず「定冠詞 the」というあの何とも理不尽なルールです。
本書では、これを「熟語表現への化石化」という理屈で説明されています。
言語学における「化石化」とは、かつては適切な目的があって使用されていた語法が、次第にそのような使い方がなされなくなった現代においても、特定の固定化された決まり文句の中で使われているもののことを言うようです。
「固定化された特定の表現の中に古い言葉の痕跡が残っていて、その使用法も固定されている」というところが、「化石」を連想させるのでしょう。
では、なぜかつては、かならず楽器には「定冠詞 the」をつけることが「適切な目的」に適っていたのでしょうか。
実は、本書はその点について、この「かつての事情」については詳述されていませんでした。
そのため、私が自分自身を納得させられる仮説を考えてみることにしました。
その仮説の前提は、かつて楽器は高価なものだったという事実です。
おそらく、どんな楽器でも、各村に一つか二つ、教会や寄り合い所のようなところに設置されてあるもので、様々な個別の楽器を目にすることなどできなかったはずです。
しかも、当時の人々はほとんど同じ地域でのみ生活をしていたわけですから、当時の会話の中に出てくる「楽器」は大抵、話し手と聞き手の間でイメージが共有されていました。
それが、現代のように様々な楽器をいくらでも見ることのできる時代になっても、「定冠詞 the」が「化石」のように使われているというわけです。
素晴らしい仮説を思いついたと思って、周りの人たちに披露していたら、この「楽器にはtheがつく」というのは、「他動詞play」に続く場合のみで、ほかの他動詞には当てはまらないことをこれでは説明できないのではという指摘がありました。
悔しいので、この仮説の前提で再び考えてみました。
楽器を目的語にとる他動詞が「play」以外に何があるかなと探してみると、楽器職人が楽器を「つくったりmake」「磨いたりrefine」したりすることが考えられます。
これらの人は、村を飛び越えて複数の楽器を「つくったりmake」「磨いたりrefine」したりしたはずですから、彼らにとっては、楽器は常に複数あり、当然にして「定冠詞 the」ではない用法もあったはずだというのが、私の即席回答ですがいかがでしょう?
英文法はある程度以上まで行くと「考古学」的な側面を有してきます。その時に必要なのは、自分自身や多くの人を納得させることができる仮説を見出すことだと思います。
なぜなら、少なくとも「とにかく楽器にはtheだ。」といわれるよりも明らかに精神衛生上良く、実益に適うからです。
これがすべての文法項目に「理屈」をつけることの効用です。