日本人と英語

昔の英語のアルファベット

2020年5月29日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「秘術としての文法」からテーマをいただいて議論をしていますが、第三回目のテーマは、「アルファベットの種類」についてです。

前々回、前回、英語もヨーロッパの他の言語と同様に、ルターやカルヴァンの宗教改革をきっかけに土着語である自分自身の「文法」に目覚めたことを明らかにし、その発展の過程について見てきました。

その中で興味深かったのは、その発展の端緒において、文法書の記述をどのような形で行うのかということについての議論が起こったことです。

その議論は、「表音主義」と「伝統主義」の二つの間で行われました。

前者の主張は、

「一つの文字は一つの音のみを表すべきであり、一つの音には一つの文字のみが対応すべきである」

というものであり、後者の主張は、

「発音は流動的なものであるからいつもそれに合わせて表記することは事実上できないし、無理にやれば伝達の困難を生むことになる。そのため習慣的に確立したつづり字を重視すべきである」

というものです。

現時点での英語を見てみると結果的には後者の「伝統主義」が勝ち、そのおかげで英語の表記に規則性がないという批判がなされる原因となっているのですが、今回のテーマは、この二つの優劣を論じるのではなく、本書における前者「表音主義」の説明の中にあった以下の指摘について詳しく見ていこうというものです。

「一つの発音に一つの文字が対応するということであれば、綴り時は発音記号みたいなものになるわけで、表音主義者のトマス・スミス卿は英語のアルファベットを36文字にまで増やしている。」

現代英語のアルファベットの数は言わずもがな26種類、であるならば、それ以外の10種類は一体何なのかと思ってしまうのは当然ですが、本書にはその疑問に対する説明が一切ありませんでした。

そのため、できる限り自分で調べてみることにしました。

すると、まずはアルファベットの種類は、西暦450~1150年ごろの英語である「古英語」と現代英語との間には以下のような違いがあったことが分かりました。

◆現代英語 (Present-day English)

a  b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x     y z

 

◆古英語 (Old English)

a æ b c d e f g h i    l m n o p r s t u    þ ð   ƿ y 

 

「æ」は、アッシュ(ash)と呼ばれ、「aとeの合成音」すなわち、「アとエを同時に発音しようとした音」です。

「þ」は、ソーン(thorn)と呼ばれ発音記号の「θ」と同一、「ð」(エスeth)とともに、いわゆるthの発音です。前者がthingの音、後者がthatの音です。

「ƿ」は、ウィン (wynn) と呼ばれ、現代の「w」の音です。ちなみに、最初期の古英語ではこの音を表すために、「uu」と表現していたようですが、後にこのウィンを使うようになり、その後、中英語の時代にフランス語の影響を受け、「uu」が再び使用され、近代になって「w (double u)」となったようです。

とはいうものの、これらを全部足しても30種類にしかならないわけで、あと6種類たりませんし、またそもそもトマス・スミスがアルファベットを36種類に増やしたというのは16世紀のことです。

ただ、これらを見てみると、「æ」や「ð」のように現在でも発音記号として利用されているものがあります。

ちなみに、これら以外で現在発音記号に使われているのは、

「ʌ ə ɔ ŋ ʃ ʒ」

の6つであり、仮にこれの6つを足せば、ちょうど36種類となります。

これらが、アルファベットとして古英語時代以外のいずれの時代に使われていたのか、それともどの時代にも使われておらずトマス・スミス卿が勝手に採用したのか、今回の私のネットでの調査では明らかにすることができませんでした。

何とも歯切れの悪い記事となってしまいましたが、今後も引き続き調査し、新しい発見がありましたらアップデートしたいと思います。