日本人と英語

なぜ前置詞の後は目的格なのか

2018年12月16日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語のルーツ」からテーマをいただいて書いていますが、第三回目の今回のテーマは、「なぜ前置詞の後は目的格なのか」です。

このテーマは前回の記事で取り上げた事例からヒントをいただきました。

その事例とは、「This is just between you and I.という文章は誤りで、betweenが前置詞で、前置詞の後には必ず目的格が来ることから、I ではなくmeが正解です。」というものです。

この事例の中では、「前置詞の後には必ず目的格が来ることから、I ではなくmeが正解です。」とあたかもこのことには誰も異論は挟まないでしょうと言わんばかりにさらっと済ませてしまいました。

また、私が主宰する「中学三年分の英文法を血肉にする講座」の「前置詞」の学習の際にも、当たり前のように「前置詞の後は代名詞の目的格が来ます」という発言だけでさらっと済ませてしまっています。

しかし、「目的格」というのはその代名詞を目的語として機能させるためにその名詞の語形を変化させたものですので、前置詞の後に目的語が来るということになんら必然性はなく、そもそも理論的に「ありえない」ことになります。

ですから、本来であれば「さらっと」済ませてはいけないものなのですが、私自身今までそこに対する合理的な理由を見つけ出すことができず、逃げてきたというのが正直なところです。

そんな中で、本書の中にこの問いに対して真正面から答えを提示している部分を発見しましたので以下に要約します。

「もともとインド・ヨーロッパ語族に属する言語は語順ではなく、語形(格)の変化によって細かいニュアンスを表現していた。しかし、それでもどうしてもニュアンスが伝わりにくい場合に、『前置詞』を補助的に活用した。そのため、もともと目的格に変化していた名詞の前にその前置詞を副詞のような機能を持たせながら置くというケースが見られた。」

その後、英語はしだいに語形(格)の変化によって細かいニュアンスを表現する仕組みを失い、前置詞や副詞を多用してそのニュアンスを表現する仕組みに変化していったわけですが、それでもわずかに代名詞だけには一部語形(格)の変化が残り、この前置詞と代名詞の目的格の組み合わせが化石のように残ったという流れです。

つまり、外形だけをとらえて「前置詞の後には目的格を置かなければならない」という理解ではなく、「目的格が先にあって、後から前置詞を置いた」ということが真実だということです。

このように考えると、言語における文法研究はまさに「考古学」的な側面があると言えるのではないでしょうか。

考古学とは、発見された現象と現象を想像力に基づく仮説によってつなぎ、様々な証拠をもってその仮説に真実味を持たせていくという学問です。

このプロセス自体に多くの人々が「ワクワク」感を感じ、魅了されるのだと思います。

ですから、英文法という分野は、もっとずっと「ワクワク」の対象になり得る魅力的なものであるはずのものではないでしょうか。

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