日本人と英語

なぜyouは単数も複数もyouなのか

2021年7月20日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英文法の『なぜ』2」からテーマをいただいて書いていますが、第五回目の今回のテーマは「you(二人称)」についてです。

本書は書籍紹介でも書いたように、「英文法にまつわる『なぜ』を『そこまで?』と言いたくなるくらいたくさん拾ってくれている」ものであり、その多くは「当たり前」すぎて私たちが疑問にも思わない「なぜ」を多く含んでいます。

今回は、「当たり前」すぎる疑問の代表例と言ってもよいであろう「なぜyouは単数も複数もyouなのか」の謎に迫ります。

以下、本書の該当部分を引用します。

「ドイツ語では『あなた』はdu、『あなたがた』はihrと言います。単数と複数では言い方が違います。英語も古くは『あなた』と『あなたがた』は形が違いました。古英語で『あなた』という単数は主格Þu、対格・与格はÞe、属格はÞinと言いました。(Þは古英語では使われていたルーン文字で現代英語のthに相当)『あなたがた』という複数は主格ge、対格・与格eow、属格eowerという形でした。その後、複数の対格・与格eowが主格にも使われるようになり、更に単数にも使われるようになりました。このeow(エーオゥ)が現代英語youの由来です。古英語に由来する単数の『あなた』はthou/thy/thee、複数の『あなたがた』という複数もyeという形で残ってはいますが、今では古風な言い方です」

ただ、これだとyouの由来は分かりましたが、肝心のなぜ複数のyouが単数にも使われるようになったかが分かりません。

実はこの疑問については、前著「英文法のなぜ(1)」にあったのですが、当時の私のアンテナに引っかからず、取り上げていませんでした。

ですのでこの理由については、以下前著からの引用です。

「このわけはラテン語のならわしにさかのぼります。3世紀後期、ローマ帝国は大きな領土を統治するために複数の皇帝を置くことになりました。このため皇帝は『私は』という時、『私たちは』という言い方をしました。そこで人々は皇帝に対して敬意をこめて『あなたがたは』という二人称複数を使うようになりました。現代フランス語には『あなた』という二人称単数にtuとvousの二つがあり、親しい間柄ではtuを改まった場面ではvousを使います。このvousは元来二人称複数です。このならわしが英語にも入り、親しい間柄では単数のthou、改まった場面では複数のyeという使い分けが行われました。その後、二人称複数は対格・与格eowに由来するyouが主格にも使われるようになり、親疎による使い分けはthou/yeからthou/youに変わり、この形が近代英語初期のころまで見られました。その後英語ではこの区別はなくなり、今では親疎に関わらずyouになったというわけです。」

つまりは、「単純化」という帰結になるのですが、今まで見てきた「単純化」については機能的に問題のない合理的なものばかりでしたが、この「単純化」は少々厄介です。

なぜなら、「あなた」と「あなたたち」の区別がつかないのは物理的に不便だからです。

この問題についても本書は以下のように言及しています。

「複数の人がいる場面でyouと言えば、そのうちの一人に言っているのか、みんなに言っているのか分かりません。そのため近代英語以降、英語は『あなたたち』という複数の意味を表す方法をいろいろ工夫してきました。よく目にするのが『you guys』という言い方です。このguysは元来『男』という意味でしたが、今ではくだけた言い方として呼びかけでは男女を問わず使われます。この他にも複数の意味ではyou peopleや二人だけの時にはyou twoという言い方もします。」

ご多分に漏れず私もアメリカ留学時代、「あなたたち」と言いたいとき、かなり戸惑った記憶があります。

そして、一般会話に慣れ「you guys」が自然に口からできるようになると、「英語が板についてきたな」と内心うれしく感じたものです。

 

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