日本人と英語

印欧語族という考え方について

2021年6月18日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語史で解きほぐす英語の誤解」からテーマをいただいて書いこうと思います。

第一回目のテーマは「インド・ヨーロッパ語族」という考え方についてです。

本書を貫くテーマを私なりに捉えなおすと、それは言語を「考古学」的にとらえることの魅力に迫ることだと書籍紹介ブログにて書きました。

そして、その魅力の根源というのが、英語にとっての祖先の祖先、つまりアダムとイブ的存在である、すでに世の中から姿を消しているがしかし、かつて確実に存在したであろう「インドヨーロッパ祖語」と呼ばれる言語です。

この言語について本書は以下のように触れつつ、「考古学」の方向につなげてくれています。

「英語が属する印欧語族については幸いにも他語族に比べて多くのことが知られている。しかし、紀元前4000年頃に存在したこの言語で書かれた文書は存在しないため、その姿を復元することはできない。にもかかわらず、冒頭のようなしっかりとした系統図が作られるのはなぜか。憶測の域を出ないのではないかと疑われるかもしれないがこの正確さは19世紀に踏み固められた比較言語学という分野における『再建』と呼ばれる科学的手法によって保証されている。」

ただ、この「再建」という手法を活用するには、その前にまずは鋭い洞察(仮説)というものが必要となるのですが、その仮説が「印欧語族」の存在というコンセプトです。

この遠く離れた西洋語群と東洋語群を結びつける「印欧語族」という途方もなく鋭い洞察を導き出したのは、言語学者ではなく、在インド判事でアジア学者の英国人ウィリアム・ジョーンズという人物です。

全ては彼のアジア学会での以下のような発言から始まりました。

「サンスクリット語は、その古さがどれだけのものであれ、素晴らしい構造をなしている。ギリシア語よりも完璧で、ラテン語よりも豊かで、いずれの言語よりも申し分ないほどに洗練されているが、それでいて両言語に対して、動詞の語幹にせよ文法形態にせよ、偶然に生み出されたとは考えられないほどの強い類似性を示している。類似性があまりに強いので、いかなる言語学者もこの3言語がある共通の源-おそらくもはや存在しない源-から生じたと信じずに研究することはできないだろう。」

彼のすごさは何といっても、西洋語であるギリシア語やラテン語を、縁もゆかりもないと思われるサンスクリット語と結び付けた点です。

これは、彼が生涯で東西あわせて28言語を学習し、その言語的性質に習熟していたことによって可能となったわけですが、このジョーンズの仮説がきっかけとなり、関連諸言語を比較する比較言語学の歩みが始まりました。

なお、この比較言語学の「再建」という手法は具体的には以下のようなものです。

「再建は、現存する言語的証拠を頼りにして失われた言語の姿を復元していく手法である。その手法の鮮やかさは、目撃者のあやふやな記憶からモンタージュで容疑者の顔を再現するかの如くであり、断片的な化石から古生物の姿を復元するかの如くである。ある言語の過去の状態を知るためには、現存する文書の言語を詳細に分析することが何よりも肝心である。しかし、現存する文書は歴史の偶然でたまたま現在に伝わったものにすぎず、分析するのに質量ともに不十分であることが普通である。必ず証拠の穴が生じる。その穴を理論的に補完し、復元対象である言語体系そのものや関連する言語変化についての知識を深めることに資するのが再建である。また、文書存在する以前の言語の状態を復元するためには、再建という理論的な方法以外に頼るべきものがない。もちろん、再建された言語の状態は理論的な復元の産物であり、手放しに信じることはできない。しかし、モンタージュが実用に役立ち、古生物の復元が生物の進化の謎に光を当ててくれるのと同様に、再建も歴史言語学において有用であり、新たな洞察を促してもくれる。再建の実際については高度に専門的なので詳細はできないが、1世紀にわたる再建作業の結果、冒頭の写真の系統図が出来上がったのである。」

以前の記事にてご紹介した考古学におけるシュリーマンの存在に負けずとも劣らないロマンを感じざるを得ませんでした。

 

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