日本人と英語

小学校英語の効果の「エビデンス」

2018年10月14日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「これからの英語教育の話をしよう」から、10テーマをいただいて議論をしていくシリーズの第三回、今回のテーマは「小学校英語の効果の『エビデンス』」です。

前回の記事では、教育行政においては専門家の意見を最優先すべき政策決定が、一般の意見を反映した政治家や企業人の影響力を強く受けてしまうことが、政策を誤る原因だと指摘しましたが、それでも、政策として進める以上、その政策のよりどころ、すなわち何かしらの「証拠」は存在しているはずです。

その「証拠」を反対派である著者が提示してくれています。

「児童が英語を学べば何かしらの変化が見られることは自明です。ただし、子供たちに成長が見られたという事実だけでは『エビデンス』とは言えません。経験していない子供と比較した時、それでも経験者の方が総合的に見て成長しているかどうかが重要です。この枠組みに基づいて私は調査を行い実証分析をしました。調査は2009年全国の公立中学2年生3000人を対象とし、小学校で英語を学んだか否か、学んだとすればどれだけかを問う設問を入れました。まず、小学校で英語学習をした児童をしなかった児童と比較すると、『親しみ』のスコアが偏差値にして1.5ポイント、英語学力は2.2ポイント、異文化への態度は1.2ポイント上昇しています。そして、もう少し詳しい分析として、総学習時間の調査、すなわち1時間授業時間が増えるごとにどれだけスコアが上昇するかを見てみると、親しみが偏差値にして0.004ポイント、英語学力は0.005ポイント、異文化への態度は0.008ポイントの上昇です。小学校英語の実現にどれだけのコストがかかっているかを考えれば、この結果はコストパフォーマンスが極めて低いと言わざるを得ません。この結果は、小学校英語制度の枠内では、追加的に英語接触時間を増やしても大して成果は見込めないことを示唆しているからです。」

日本語の能力が完成していない小学生に対して、限られた時間内で、なおかつ教える側の準備も整っていない中で英語教育を施すことによって生じる「成果」は、こんなものだろうということは予め分かっていましたが、それでも実際にこのようにエビデンスを出されると愕然とするものがあります。

しかも、驚かされたのはこの結果自体のインパクトよりも、このような「エビデンス」を小学校英語推進派は誰も示していないという事実です。

この調査結果は、非常に微弱ではありますが小学校英語の「有意な効果」が示されています。

本来であれば、その事実を推進派の世の中に対する説得材料として利用してもおかしくないのに、いまだかつて「エビデンス」を示したことはないというのです。

結論ありきの政策にとっては、たとえそれが有意であっても威力の小さな証拠はむしろ隠したくなるものなのかもしれません。

ですが、医療ほどとまではいかなくとも、大きな予算を実行しなければならない「政策」である以上、しっかりとした「エビデンス」をもとに実行していただかなければなりません。

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