日本人と英語

小学校英語教科化の根拠

2018年10月10日 CATEGORY - 日本人と英語

先日、書籍紹介ブログにてご紹介した「これからの英語教育の話をしよう」という本ですが、その記事の中で私は、日本の英語教育のこれからに希望を持たせてくれるような本だと評価しました。

そのため、大体書籍紹介ブログでご紹介した後には、その関連記事を「日本人と英語ブログ」に多くて3~4つのテーマを挙げて記事を書くことが普通なのですが、今回は、本記事を含み合計10テーマにわたる記事をアップさせていただくことをあらかじめお断りさせていただきます。

その第一回目のテーマは、「小学校英語教科化の根拠」です。

今回の全国の小学校に英語教育を導入、しかも従来の成績をつけない「外国語活動」から成績の評価を伴う正式教科化という教育政策は、教育史上まれに見る大転換なのですから、当然その「根拠」はあってしかるべきです。

しかし、共著者の一人寺沢拓敬氏は、その根拠はないと断言し、以下のように述べています。

「文科省は教科化を慎重な調査・徹底的な議論の上に決定したのでしょうか。結論から言うとノーです。最近出た本の中で、文科省の前教科調査官が教科化は10年前からの既定方針だったと回顧しています。確かに中教審答申を見ても、この既定路線に沿うように書かれていることは間違いありません。つまり、『英語を教科に格上げする』という結論がまず先にあって、この結論を下支えするような根拠をピックアップしています。」

そして、その問題点を以下のとおり挙げています。

①答申はきちんとした根拠を述べていない。

②現在までの小学校英語に成果があったという証拠がない。

③現行の外国語活動を教科化しなければならないとする根拠が不明確。

④以前の答申と矛盾することを述べており、一貫性に欠ける。

ちなみに、この答申では「根拠らしきもの」として、「(従来の)外国語活動の充実により、児童の高い学習意欲、中学生の外国語教育に対する積極性の向上といった変容などの成果が認められる。」ことを挙げ、こうした成果を踏まえ、「高学年から発達の段階に応じて段階的に文字を『読むこと』及び『書くこと』を加えて総合的・系統的に扱う強化学習を行うことが求められる。」とされています。

この件についての著者の以下の指摘は、非常に鋭く的を射ています。

「全ての教育プログラムには、①好影響②効果なし③悪影響の三つの帰結があり、この三つを把握して全体として評価する必要がある。すなわち、どんなプログラムでも、やれば何かしらの効果はあるに決まっており、その好影響の部分だけを取り出して、『小学校英語にはこんな効果がある!』と叫ぶことには意味がありません。しなければならないことは、『教科の英語をした場合、しなかった場合にそれぞれ生じる三つの帰結を総合的に分析して、これだけ結果に差がある』ということを示すことです。」

そんなことは、文科省の役人だって知っているに決まっているわけです。

にも関わらず、このような片手落ちの「根拠」の提示を行うということは、結論ありきの議論であったことを如実に表しているというのです。

そして、「④以前の答申と矛盾することを述べており、一貫性に欠ける」点について、以下のような指摘をしています。

「答申は、『現行の外国語活動には中学校との接続という課題がある』とあっさり結論づけているのですが、これは実は重大な宣言なのです。というのもおよそ10年前の外国語活動の必修化を決定した時に言っていたことと真っ向から矛盾しているからです。現行の外国語活動の位置づけは中学校以降の英語教育のいわば『アンチテーゼ』でした。つまり、『ゆくゆくは中学英語につながるものではあるけれど、そもそも中学校英語とは違うんです。中学校英語では取り扱えないことを小学校段階でやるんです。』というロジックで、中学校英語のように体系的学習を目指さない点が特徴とされていたのが、たかだか10年で、当時の公式見解は忘却の彼方に行ってしまっているようです。この背景には、『本当は教科にしたかった。でもいろいろ準備が追い付かない。仕方がないから2011年の新学習指導要領では、移行措置として外国語活動でお茶を濁そう』という判断があったのでしょう。」

この件については、私としても明確に記憶に残っています。

そして、当時、私はそれでも外国語活動の必修化に反対をしていましたが、あくまでも「中学校英語の前倒し」ではなく、「英語文化に触れさせるだけ」だというスタンスに多少の気休めを感じました。

このように感じた「小学校英語不要論者」は私だけではなかったと思います。

このように見てくると、著者の言う通り、「小学校英語教科化」が、結論ありきの議論であったことを如実に表していると考えざるを得ないと思います。

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