日本人と英語

「新しい」三人称の they

2022年4月3日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語の新常識」からテーマをいただいて書いていますが、第七回目のテーマは「新しいsingular they」についてです。

前回まで、「黒人」「先住民」「障害」などに関する「呼称」の変遷を見てきました。基本的にそれらすべて「名詞」に関わるルールの変遷でした。

今回とりあげる「they」は、名詞は名詞でも前回までのように個別の名詞ではなく、「代名詞」という英語の構造に直結するルールの変遷なので言語全体の生態系に与えるインパクトはこれまでみてきたものと比べてずっと大きいものだと思います。

以下に本書の該当部分を引用します。

「theyは基本的には『三人称複数の代名詞』ですが、会話に出てくる人物の性別が分からない、あるいはそれが重要でない場合に『三人称単数の代名詞』としても使われてきました。例えば、ジェンダーの区別のないkidやchildという語を会話で使って話をしている時に、『単数』ということは認識していながら、What’s their name?とかHow old are they?などと相手に尋ねることも普通にありました。」

ちょっと、ここで区切りますが、お恥ずかしながら私はこのようなtheyの使い方も今回この指摘で初めて知りました。

では続けます。

「また、Everybody has their off days.(誰でも機嫌の悪い日はある)では、主語は単数のeverybody ですから、代名詞は包括的な(generic) heの所有格であるhisが使われ、Everybody has his off days.とかつてはしていたのですが、これだと『男性』についてだけ言っているようにも思われるかもしれないし、性の多様性の見地から、hisではなく、his or her とされました。しかし、それでは却って堅苦しかったり、気取っていると思われたり、毎回繰り返すことの煩雑さから、theyを単数の代名詞として使う用法が広まってきたものです。こうした場合におけるthey/them/theirは『非標準』とされてきたのですが、口語では現在この形が圧倒的に多く使われます。」

これについては私も知っており、実際に使うことで便利さも感じてきました。私としてはいわゆる「singular they」はこのことだと認識してきました。

今回取り上げるのは次のように指摘される「新しいsingular they」です。

「一方、2010年代からよく目にするようになってきたのは、heやsheで受けるのが不適切で、どちらとも呼ばれたくないnonbinaryな人に関してtheyをつかうものです。三人称単数のgender naturalな代名詞としてのsingular theyは、2015年に『ワシントンポスト』が正式に容認しました。また、アメリカの辞書出版大手のWebsterが2019年のWord of the Yearに、またAmerican Dialect Societyが2020年にWord of Decadeに選びました。なお、theyを単数として使う場合でも、be動詞はisではなく複数名詞を受けるareを使います。こうした用法は『文法的におかしい』との指摘もありますが、二人称のyouも現在では単数・複数両方に使われていますが、もともとは単数形はtheeとしてyouは複数形だけを意味していたことから、theyも時代の移り変わりの中で単数・複数ともに使われるように変化しても不思議ではありません。」

私としては、この世に「性別」が存在している中であえてheとsheの区別をなくしてsingular theyに統一するということは、逆に「性の多様性」に反するのではないかと心の中で思っていました。

ですから、「性の多様性」を本当に追求するのであれば、heとshe という性別の代名詞を存在させた上で、自らの性をそのどちらにも決められない、決めたくない人々に対してこの「新しいthey」を選択肢として提供できるようになれば、theyたち(残念ながら日本語にはまだその選択肢はありません)にとって自然体に生きるための大きな助けになると思います。

 

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