日本人と英語

言語における「系統」と「影響」

2021年6月20日 CATEGORY - 日本人と英語

前回より、書籍紹介ブログにてご紹介した「英語史で解きほぐす英語の誤解」からテーマをいただいて書いていますが、第二回目の今回のテーマは「言語における『系統』と『影響』」についてです。

前回ご紹介した「印欧語族」の系統図によって、英語とドイツ語やラテン語など他の言語が「関係」していることは分かりましたが、今度はその「関係性」の種類について考えてみたいと思います。

本書では、この関係性について「系統」と「影響」という二つの概念があり、それらをきちんと分けて理解することの重要性を指摘しています。

まずは、「系統」ついて以下引用します。

「英語と諸言語の関係についての誤解の多くは『系統』と『影響』とを混同していることによるものが多い。『系統』とは比喩的に言えば血縁の関係であり、親子、姉妹、親戚といった用語で示されるような関係である。系統図に従って、『フランス語はラテン語から生まれた』『英語とフリジア語は姉妹である』『英語とオランダ語は低地ゲルマン語群内で親類関係にある』などと表現することができる。系統的に近ければ見た目も似ている傾向があるのは生物の場合と同じである。だが、血がつながっていたとしても数世代経てば外見や性格の著しく異なる個体が現れることも珍しくない。それでもよくよく血液検査をすれば繋がりがあることはおよそ明らかになる。このような関係が系統である。」

続いて、「影響」について

「一方で影響は、血縁とは別次元の問題である。血のつながりのない知人から受ける影響ということを想像するとよい。ある知人と親交が深まれば、見た目や考え方もその知人に似てくるものである。ここで知人とは同時代に生きている人物だけではなく、かつて生きていた偉大な人物であってもよい。後者の場合、その人物の残した書物などにより影響を受けるということになる。言語に置き換えれば、地理的に隣接しているために直接に接触する場合であれ、書物などによって間接に接触する場合であれ、血縁関係のない言語同士が影響を授受することは十分にありうる。ラテン語と英語の関係はこのような『影響』の関係である。英語にとってラテン語は系統的には限りなく赤の他人に近いが、古英語以来、ラテン語の語彙は文物を通じて英語へと浸透していった。結果として英語は特に語彙において半ばラテン語さながらといってよい状態となった。この類似が親子関係やその他の血縁関係(系統)によるものではなく、いわば師弟関係(影響)によるものであることはしっかりと区別して理解しておく必要がある。」

ただし、この二つの違いを言語の形態だけを見て即座に判別することは難しいということも著者は強調しています。

そこで、この区別を可能にするにあたって重要なのが「歴史の事実」だと言います。

上記の英語とラテン語との関係で言えば、英語文化がラテン語文化から影響を受けてきたという事実を先に知っていることが極めて重要だということです。

つまり、言語学は考古学であり、また歴史学でもある。

ここが、DNAという必殺技が存在する生物の分野と異なり、物的証拠というものが少ない「形のない」言語の弱点があるからこその学問的魅力だと思います。

 

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