日本人と英語

自動翻訳の限界と対処

2022年8月17日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語が出来ません」からテーマをいただいて書いていますが、第四回目のテーマは「自動翻訳時代における英語教育の必要性」です。

前回までで、本書の最重要目的である「日本ではこれだけ英語に労力を費やしているのに一向に英語が出来るという成果を得られる人がほとんどいない」という極めて残念な事実を作り出している「真犯人」の突き止めに成功したわけですが、ただその問題の解決そのものを不必要にしてしまうかもしれない新しいテーマが出てきてしまいました。

それが「自動翻訳技術の進歩」です。

「今ではスマートフォンに日本語で話しかけると英語に訳してくれたり、英文を入力したら日本文に訳してくれたり、Google翻訳では英文を張り付けると、短時間で日本語にしてくれ、今どきの大学生はそれで英語の論文を読んでいるという。それなのにどうして英語を勉強しなければいけないのか。そんな子供たちが出てきているらしい。大人たちも同じだろう。」

確かに、この問題は私のような英語教育を生業にしている者からすれば、生存を脅かされそうな恐ろしい技術革新ですが、今まで見てきたように英語に悩まされ続けてきた日本人の多くにとっては歓迎するべき社会の到来を意味しているように見えます。

このテーマに関して、著者は実際にその道のスペシャリストから現状と見通しを聞いています。

インタビューを受けたのは国立研究開発法人情報通信研究機構でコンピューターを使った自動翻訳を研究しているフェローの隅田英一郎氏です。

以下に、隅田氏の見解を要約します。

「自動翻訳の世界は数年前に『革命』が起きて格段に進歩しました。すごく精度が高くなったことは事実です。しかし、必ず間違えるため、鵜呑みにしない使い方が必要です。というのも、どんなに優秀なコンピューターでも訳すのは一文ずつ。現在の技術では前後関係も文脈も見ることはできない。日本語の場合は主語や目的語を省略することが多いため、語訳が生じやすい。また、空気は読まないし、忖度もしない。だからこそ、必ず『人間がチェックしなければいけない』のです。具体的な例として、2019年秋の台風19号が静岡県浜松市を襲った際、市役所が日系ブラジル人などに向け避難を促す情報をポルトガル語で伝えようとして問題が起こりました。『高塚川周辺に避難勧告が出ました』を自動翻訳ソフトを使ってポルトガル語にした際、『高塚川周辺に避難してください』と読める文章になってしまったのです。当時、ポルトガル語が分かる職員が不在で確認できなかったため生じました。」

このように、自動翻訳には限界があり、その限界による問題が生じた際には、場合によっては自動翻訳を使ったことによって、かえって甚大な問題を生じさせてしまうことがあるということを私たちは知っておく必要があります。

これは、技術が発達するにつれ、その技術自体がブラックボックス化してしまうことで、何か起きた際に人間には手も足も出なくなってしまっている状態で、普段の利便性を獲得することと引き換えに、我が身を完全に技術に預けざるを得ないという大変大きなリスクを引き受けなければならないという問題です。

昔だったら、車が故障したら街の修理工場のおじさんがガチャガチャやって直してくれたのが、モジュールの交換でしか対応できないとか、今ではコンピューターを導入しているところでないとどこが悪いかさえ見つけることができず、もはやお手上げといったようなことが頻発するようです。

また、航空機も技術の進歩によって墜落事故のリスクも非常に低く抑えられるようになりましたが、こちらもコンピューター制御の割合が高くなりすぎて、一旦何か問題が起きてしまったら、操縦士の能力で対処することができる範囲は非常に狭く、その際にはほとんど何もできなくなってしまっているのと同じようなことが言語の世界にも起こり始めています。

そんな恐ろしい未来を見せられた著者は、すかさず先ほどの隅田氏に「今後も英語の勉強は必要かどうか」という最も重要な質問をしています。

その質問に対し隅田氏は次のように回答しています。

「中学高校の英文法はちゃんと勉強しておいてください。自動翻訳はさらに進み、精度も上がります。でも人間によるチェックはどこまで行っても必須です。今後、全て機械に任せてしまったら、機械が行ったことが正しいかどうかを誰も判断できなくなってしまいます。人間の側は、自動翻訳がある、『だから英語を勉強しない』のではなく、『だから英語を勉強する』そんな時代に入ろうとしているのです。」

重要なのは、あくまでも人間はAIに使われるのではなく、人間がAIを使うという姿勢を崩してはいけないということだと思います。

 

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