日本人と英語

英文は文法と文脈の合わせ技

2020年6月24日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「英語コンプレックス粉砕宣言」からテーマをいただいて議論をしていますが、第三回目のテーマは「文法と文脈」についてです。

あまりにも「当たり前」すぎるテーマですが、だからこそ重要であって、著者のお二人も改めて取り上げられたのだと思います。

まずは、鳥飼先生の問題提起から。

「私はかつてNHKでテレビ放送していた『ニュースで英会話』を今でもウェブで継続する中でニュース英文を掲載し、日本語訳、単語の説明をつけて解説しています。その和訳について間違っているんじゃないか、辞書にはそんな意味は載っていないという質問が来たことがありました。でもそれは、辞書の訳語に引っ張られすぎで、文の構造を見ればどういう意味で使われているかは明らかなはずなのです。それに前後の文脈から見ても、辞書の日本語訳を忠実に当てはめると辻褄が合わなくなる。そう説明したのですが、文全体の構造を見ずに、前後の文脈を無視して、辞書に出ている訳だけで解釈しようとしているんだなと分かりました。」

文中では、「構造」となっていますが、これは「文法」と言い換えてもよいと思いますが、これに対して齋藤先生は次のような指摘をされています。

「確かに構造訓練が足りていない人が多い。それから日本語の訓練ですね。意味不明な文章を書いて、本人もよく分かっていないのに、それで良しとしてしまうところがある。私は翻訳の監訳を依頼されることがありますが、次のようなプロの翻訳家の翻訳文に出会ったことがあります。『人生は追加ではなく増加である』。『人生』に続く言葉として『追加』も『増加』も意味が分かりませんよね。それで英語の原文に戻って調べてみると、『人生は足し算ではなく掛け算である』でした。基本的な英語を良く調べもせずに訳していることも問題ですが、自分が書いた日本語をおかしいと思わないことが、まずおかしい。」

本書には原文が書かれていませんでしたが、該当する語彙はおそらく「addition」と「multiplication」だと思われます。まず私は、これがプロの翻訳家の翻訳文であるということに驚かされました。

なぜなら、言葉を職業としている人間が言葉を大切にしていないということが明らかになる事例だからです。

英文(言葉)は、突き詰めれば「辻褄」です。「論理」です。そして、この二つはまさにタイトルの通り、「文法と文脈の合わせ技」によって実現されるわけです。

この事例では、この根本的な部分が明らかに「おかしい」のに、それをおかしいと思っていないということが明らかにされているのです。

プロである翻訳家からしてこうであれば、現在進行形で英語を学んでいる中学生のことを思えば、恐ろしくなります。

その上で、前回のテーマのように学校英語が文法を軽視し、日本語を経由せずに「英語は英語で」などということを中途半端にやっていれば、辻褄(文脈)があっていないことをチェックするタイミングはなくなります。

そうなると、これからどんどん機械翻訳が発展する中で、わずかに残される機械の弱点に対する人間としての強みというものを訓練する場がなくなってしまうということになります。

学校英語がこの「建前」を主張し続けていけば、その恐ろしさは想像を絶するものとなるでしょう。

 

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