日本人と英語

英語習得の科学的検証

2014年5月7日 CATEGORY - 日本人と英語

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書籍紹介コーナーで紹介しました白井恭弘著「外国語学習に成功する人、しない人」および「外国語学習の科学」にかかれている内容について、「日本人と英語」を考えるうえで非常に重要だと思いましたので、ここで整理要約して皆様とシェアしたいと思います。

これらの本では、日本人にとっての英語の根本的な問題の解明から入っていきます。

それは「なぜ日本人は英語が苦手なのか」という問題です。その答えを第二言語習得研究(SLA: Second Language Acquisition)の立場からは以下の三点が原因だと紹介しています。

1. 英語は日本語との言語距離が大きいこと

英語はインドヨーロッパ語族に属し、その中でもドイツ語やオランダ語と非常に近く、その次にラテン系のスペイン語やフランス語、そして、中国語や韓国語、日本語に至っては非常に性格の違うものとなっています。そのため、日本語を使う日本人が本来的に英語学習を苦手とすることは当然であると言えます。

2. 日本人の英語学習への動機づけの小ささ

日本人は(最近では事情が少し変わってきているが)日本国内では英語がなくても快適な生活をおくることができます。それに比べ、例えばフィリピンなど欧米の植民地政策の対象だった国では自国語以外に英語ができなければよりよい職業に就けないなど、英語を学ぶことへの実質的モチベーションが高くなります。また、日本は明治期に西洋文明の情報の多くを日本語へ翻訳する努力をしたため大学教育を日本語で受けることができるようになっているのに対し、他の国ではその努力を怠ったため、高等教育は英語でないと身に着けることができません。そのため、このような国々では、高等教育を受けるモチベーションと英語を学ぶモチベーションとが重複していることになります。

3. 大人の日本人の外国語を使用することに対する心理的バリアが大きいこと

外国語学習を行うことは、その過程で多くの失敗をすることになるので、本来的に「気恥ずかしさ」を伴うものです。そして、日本人はその文化の背景に「恥」の概念を色濃く持っており、他国民に比べてもその本来的な心理バリアはかなり大きいものと言えます。例えば、面白いジョークで「国際会議で最も大変なことは何か」というものがあります。「インド人を黙らせることと、日本人に発言させること」。これはインド人が英語力があるから発言が多く、日本人が英語力がないために発言がないということではなく、この心理バリアの高低を指摘したものです。

以上は、日本人がなぜ他国民と比べて英語が苦手かという問題への答えになるわけですが、もう一つ、個人間での英語が「得意」「苦手」の差が生じる問題についての指摘がありましたので以下にその内容をご紹介します。

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1. IQが高い人間は英語の能力も高いのか

言語能力には「日常言語能力」と「認知学習言語能力」の区別があり、前者はその名の通り日常会話につながる能力で、後者が教科書学習などにつながる認知能力です。「認知学習言語能力」にはIQテストとの間に相関がある程度あるといわれていますが、「日常言語能力」の間にはほとんどないといわれます。ただ、そもそもIQテストというものは学校での学業成績を予測するために開発されたものなので、当然といえば当然ですが。

2. 男性と女性では女性のほうが英語の能力が高いのか

これについては驚くことに、ズバリ、女性のほうが高いという結果が実際に出ているようです。結果としてはそうなのですが、その理由についてはよく分かっていません。ただ、女性のほうが人間関係について協力的だからというような見解もあるようです。定年後、男性は友達をつくらず家にこもりっきりの方が多いのに対し、女性は友人とお稽古ごとや旅行に忙しいということをよく聞きますのでこれも直感的にはわかるような気がします。

3. 外向的だったり、自己抑制が低い人のほうが英語能力が高くなるのか

これについては、IQと同様、「日常言語能力」には外向性との間に相関があり、「認知学習言語能力」には内向性との間に相関があるという仮説が立てられたようです。しかし、研究の結果、「日常言語能力」には外向性との間に相関が認められましたが、「認知学習言語能力」には内向性との間には相関は認められなかったようです。また、外向性に関係すると思いますが、お酒を適量(多すぎても少なすぎてもダメで、ほろ酔い程度)を飲むことによって、いい気分(外向的)になり発音の正確性や流暢さが上昇するという実験結果がでているようです。これについては直感的に理解することができるものです。

以上、第二言語習得とその適性についてみてきたわけですが、これらは実は、ランゲッジ・ヴィレッジの10年にわたる運営の中で実際に見てきた事象だということに気が付き、改めて驚いています。特に、会話について女性のほうが男性より優位だったり、お酒の効用だったり、スタッフ一同、「その通り!」という感じでした。

それでは、最後にこの第二言語習得研究を実際の英語教育にどう生かすかという議論についても見てみたいと思います。つまり、いま日本で行われている英語教育は外国語の科学から見て理に適っているかどうかという視点です。

ただし、日本の教育がインプットに終始してアウトプット(会話)の機会が全くないということについてはこの研究の結果を待たずとも明らかなことなので、ここではその件については触れません。(この点については他のページで非常に詳しく述べています。)

ここで触れたいのは、日本の英語教育で一生懸命行われているインプットの方法についてです。

ご紹介したいのは、「習得順序」という概念です。これは、学習者がどういう順序で様々な文法項目を習得していくのかというものです。学習者が一番無理なく自然な形で吸収していける順序と言い換えてもよいかもしれません。

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例えば、三人称単数の「s」については、日本の英語教育では現在形の説明のところ、すなわち、かなり早い段階で教えることになっています。しかし、この「習得順序」という概念で考えると、これは理に適っていないことになります。

というのも、この三人称単数の「s」は相当後の段階にならないと習得できない項目だということが研究によって明らかになっているのです。

実は、このことを知った時、私は「してやったり」と思いました。

というのも、私が講師を務めているLVの事前無料文法講座「中三文法を血肉にする講座」においても、文法項目として現在形や過去形を学んで実際に使ってみるという宿題を与えるのですが、その時に三人称単数現在の場合でもまずは「s」についての存在を無視し、「keep」などの不規則動詞でも過去形を「keeped」としてもOKとして突き進んでいます。なぜなら、現在形や過去形のルールをまず体に浸み込ませる練習をするべき時にその例外の存在を持ち出すことが、ルールの浸み込ませの邪魔をすることになるということを体感的に理解していたからです。

そして、ルールが完全にしみこんだときに初めて「実は例外があってね、、、」というぐらいにするべきだと考えていたからです。学校教育が行っているルールを覚えるべき時の揚げ足取りのようなやり方は体感的にありえないと思っていたのです。

そのことを、科学的な研究結果として証明していただいた気がして胸がすくような思いがしました。実は、この方法を中学生に実践した時に数人の親御さまから「三人称単数の s を忘れるような先生は信用できない」と苦情をいただいた経験もあります。(笑)

以上は「第二言語習得研究」の結果の一部にすぎませんが、そのエッセンスの部分を抽出できたと思っています。私は、この「第二言語習得研究」をある程度体系的に理解した上で外国語教育に臨むことはこの業界にいる者の最低限の務めだと思いました。

その務めを果たす一環として今回はここで皆様とシェアできればと思い、長文になりましたが書かせていただきました。

 

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