日本人と英語

赤ちゃんは言語の天才か

2020年1月29日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「赤ちゃんは言葉をどう学ぶのか」からいくつかテーマをいただいて議論をしていきますが、第一回目のテーマは、「赤ちゃんは言語の天才」かどうかについてです。

「赤ちゃんは言語の天才」

この言葉ほど、我々大人が新しい言語を学ぶときに惑わされてしまう言葉はありません。

なぜなら、赤ちゃんの母語獲得成功確率はほぼ100%だからです。

この事実だけを見れば、誰も「赤ちゃんは言語の天才」という言葉を否定することができなくなってしまうわけですが、しかし、このことについて私自身今まできちんとしたエビデンスに基づいた学びをしてこなかったことに気づきました。

本書には、赤ちゃんの母語獲得に過程について非常に詳しく書かれていますので、体系的にご紹介したいというのがこのシリーズの目的であり、その第一弾としてそもそも、赤ちゃんの「天才性」について見てみたいと思います。

以下、赤ちゃんの天才性についての記述を要約します。

「赤ちゃんが単語を獲得する数の増加を月齢ごとに見ていくと、話し始めの最初の半年ほどは、月に3~5語といったところです。しかし、それが1歳半を超えると、月に30~50語も増えます。この急激なスピードアップは、『語彙爆発』と呼ばれます。この人間の赤ちゃんの言語発達のスピードがいかに爆発的であるかは、チンパンジーと比べるとはっきりします。チンパンジーは、遺伝子レベルでも私たち人間に非常に近く、DNAレベルの違いは1%台にすぎません。ですから、動物園のショーなどで高い知能性を見ることができるわけです。そのため、今まで多くの研究者たちが適切な環境を与えることによって彼らも人間の言葉を覚えるようになるのではないかという仮説を立て研究しました。例えば、20世紀半ばのアメリカの心理学者ヘイズ夫妻は、チンパンジーを自宅に引き取り、人間と同じように育て、言語教育を施しました。しかし、3年間で『ママ』『パパ』『カップ』『アップ』の4つの言葉しか獲得できませんでした。ただ、ヘイズ夫妻は口の構造がチンパンジーは発話に向かない可能性を考え、手話を教えることにすると、非常に『着実』に覚え始めました。その結果は、3年間で85語です。」

しかしながら、人間であれば、この時点で700語は超えているはずですから、この差が人間の赤ちゃんの語彙獲得が「爆発的」と捉えられ、「言語の天才」と評される所以です。

たった1%のDNAの違いに過ぎないのに、これだけ大きな違いがあるということに驚きを隠せませんが、この「語彙爆発」を見れば少なくとも人間の赤ちゃんが「言語の天才」と評されることに異論をはさむ必要はなさそうです。

ただし、イチローが自身が「野球の天才」と評されるのに対して、「努力を継続」できることこそが「天才」であると自認しているように、赤ちゃんもただその「天才」にのみ頼って自動的に母語を100%の確率で獲得するわけではないというのが、実は本書の主題です。

次回以降その点について書いていきます。

 

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