日本人と英語

thisと thatそしてitの違い

2021年11月15日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「日本人なら必ず誤訳する英文」からテーマをいただいて書いていますが、第九回目のテーマは「thisと thatそしてit」です。

「this」「that」「it」の三つは指示代名詞に分類され、英語を学ぶ最初期に登場する超基礎的な語彙ではあるのですが、翻訳という最も英語と深くかかわる職業を目指す人に向けた本書がこの三つの違いについての解説をしています。

そして、驚くべきことにその解説は非常に目新しいのです。

つまりそれは、いかに私たちの英語の理解が薄っぺらいものにとどまっているかということを表しているとも言えるのだと思います。

では、まずは本書の例文を見てみましょう。

Alcohol and cigarette are both harmful. But this is less harmful than that.

(酒もたばこも健康によくない。しかし煙草は酒よりも害が少ない。)

続いて、解説を以下に引用します。

「ご存知の通り、thisはthat より距離の近いものを指しますから、こう言う場合も、文中での距離が近い方がthisであるというのがルールです。つまり、2番目の文から見て、距離が近いのは後者のcigaretteですから、thisはcigaretteを指します。文中でのthisとthatについては、もう一つ大事なことがあります。それはthisはこれから述べようとしていることを指す傾向があり、thatはすでに述べたことを指す傾向があるということです。例えば、This is the CBS evening news. と言ってから始まります。つまり、これから起こることをthisと呼んでいるわけですね。そして、番組の最後には、And that is the CBS evening news.と言って終わります。つまり、これまでに起こったことを指しているわけです。このような区別は口頭だけでなく、文章においても同様で、thisが『下記のこと』、thatが『上記のこと』を表すのが原則になります。」

本書ではもう一つthatとitの違いについても言及があります。こちらの方がthisよりも違いが分かりにくいという意味で興味深いと思います。

例文は次の通りです。

You said that! (あなたはそう言った!)

You said it! (そのとおり!)

「違うのはthatとitだけです。文脈にもよりますが、実はこの二つは正反対に近いニュアンスになることが多いので注意が必要です。上は『自分でそう言ったじゃないか!』の様に非難のニュアンスを帯びる場合が少なくありません。下は『そう、まさにあなたの言った通りだ』という感じで強い同意を表すことが多いようです。」

著者の解説を私なりに咀嚼して再構築すると、this と that は時間的空間的距離の違いを表し、it と that は自分の考えとの距離すなわち「親しみ深さ」の違いを表しているということになるでしょうか。

世の中と一緒で、簡単に見えるものほど奥が深いものです。

 

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