wouldの謎と個人主義
2021年10月14日 CATEGORY - 日本人と英語
以前に書籍紹介ブログにてご紹介した「英語の思考法」からテーマをいただいて書いていきたいと思いますが、第一回目のテーマは「would」についてです。
wouldは助動詞willの過去形であり、「仮定法」を作るときに頻繁に使用されることは、このブログでも何度も説明しておりますので、それほど疑問を持たれる方は多くないかもしれません。
ただ、以下のように単独で使われると、なぜここでwouldが「仮定法」として使われているのかをしっかり説明することができる人はどれほどいるのでしょうか。
「I wouldn’t go right now.」
正直言って私も分かったふりをしていた人の一人かもしれません。
本書での説明を引用します。
「海外でも大ヒットしたスタジオジブリの『千と千尋の神隠し』のリンという女性の『いま釜爺のとこ行かねえほうがいいぞ』というかなり勇ましいセリフには、『I wouldn’t go right now.(私だったらいかないなあ)』という(消極的な)字幕がついている。このwouldの『私だったら』というニュアンスが仮定法の『仮定』の意味するところだ。日本語は『行かねえほうがいいぞ』なので『You shouldn’t go.』でもよさそうだが、主人公のセンがその前に『I’m going to see Kamajii』という自分の意向を示しているのに対しては、shouldでは強すぎて抵抗があるということだ。『釜爺のところへ行く』というのはセンの『個』として『独立』した意思を尊重して間接的に助言しているのである。」
「I would not go. 」だけでなく、「Would you pass me?」なども当たり前のように「仮定法」の用法だと私たちは言ってのけますが、では何を仮定しているのか?
「If I were a bird, I would fly.」であれば、「私が鳥だったら」と仮定しているとはっきりわかりますが、上記の二つについて今まで自信をもって何を仮定しているのかを言えたかどうか自信がありません。
ですが、ここで「I would not go.」について「もし私だったら(If I were you,)」という従属節が省略されていることが示唆されていました。
ですから、Would you pass me?も「(もし)頼まれたら」とすれば、意味がよく分かります。つまり、これらもIf you were asked by me, would you pass me?のIf you were asked by me, が省略されていると考えることで「仮定」の意味が理解できるというわけです。
非常に簡単なことなのですが、こうやって直接的に説明されているものを見たのは初めてでした。
このことについて大きな発見だったわけですが、今回は同時に本書の趣旨である「英語の思考法」に関しても大きなポイントをついてくれています。
それは、「英語は日本語と違って直接的な言葉だ」という私たち日本人にとっての当たり前ともいえる「定説」を「俗説」としてここで完全に否定していることです。
というのも、直接的な物言いを嫌うはずの日本語の方では、「行かねえほうがいいぞ」となっており、少し英語を知っている人の普通の感覚だとこれは「You shouldn’t go.」と訳してしまいそうなところ、実際にはわかりやすい「shouldn’t」をわざわざ避けて「(If I were you,)I would not go.」という具合に意訳をしているわけです。
これは、相手の領域に入りすぎず相手の「独立」した「個」を尊重するという「英語の思考法」の核となる部分を浮かび上がらせたものだと思います。
私たち日本人には、「個」を大切にするということには、自分だけでなく相手にも「個」が存在するという大前提がすっかり抜け落ちているのかもしれません。