代表ブログ

それでも昭和なニッポン

2024年11月3日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

前回ご紹介した「異次元緩和の罪と罰」の記事の中で、

アベノミクスの実態について、「このやるべきことをやらずにやってはいけないことを10年もやってきてしまった」ことであるという総括を以前の記事から引用し、その上で「『やるべきこと』とは『成長戦略(規制緩和)』であり、『やってはいけないこと』とは『金融戦略(異次元緩和)』です。」という補足をしました。

日本が、この「成長戦略」という「やるべきこと」をやってこなかったことにスポットを当てて書かれた「それでも昭和なニッポン」という書籍を読んでみました。

以下、本書の趣旨をまとめてみたいと思います。

まずは現状を見てみましょう。

以下は、現在の日米の時価総額トップ企業ランキングの上位10社の顔触れです。

ざっくり言えば、日本勢が「昔の名前で出ています的な企業群」が中心なのに対して、米国勢は「今を時めく新産業創出企業群」すなわち、30年前には影も形もなかった企業ばかりです。

もっと具体的に言えば、米国勢は基本的にすべて「デジタル」を主戦場にする企業である一方で、日本勢はそれが一つもありません。

とはいえ、そのような日本の古い企業であっても、デジタル化とは無縁ではいられなくなっており、主戦場が「デジタル」ではないと言っても、インターネットをはじめとするデジタル技術の上で(その古い)ビジネスを成立させているわけです。

このことを揶揄する言葉に「デジタル小作人」や「デジタル農奴」といった言葉があります。

米国のGAFAMをはじめとする、まさに米国の時価総額ランキングに名前を連ねる企業からデジタル空間の利用権を借りて畑を耕す小作人と化し、いくら稼いだとしてもその儲けの大半を彼らによって巻き上げられてしまっているのです。

ここまでの話で、本書の「昭和なニッポン」というタイトルには2つの意味があることが分かります。

まず一つは、昭和な古いビジネスを欧米の新しい企業が提供するサービスの上で「小作人」のように高いコストを支払った上で展開しなければならない、非常に非効率で残念な「日本企業」であり「日本人」という意味。

*これについてはかつてご紹介した「弱い円の正体」の記事で見た国際収支の状況における「新時代の赤字」という概念と一致します。

そして、もう一つは(こちらが本書の議論の中心ではありますが)、JTC(Japanese Traditional Company)と皮肉を込めて形容されるような、昭和の時代から脈々と受け継がれる硬直的な組織が日本には多数存在しているという意味です。

以下に、本書の該当部分からその硬直的な組織の特徴を引用します。

「何かと紙の稟議書を書かされ、ハンコを取りに走りまわされる」

「なんでもかんでも確認、確認。上司の口癖はとにかく報・連・相」

「専門性を無視した部署間移動が常態化している」

「やたらと飲み会が多く、参加はほぼ強制。上司の話題は昔の自慢話」

「誰が見ても理不尽なパワハラ体質の社風が厳然と残っている」

「給料も福利厚生も悪くないが、そのせいか、あまり働かない中高年社員が多い」

「出る杭は打たれる。多くの社員はなまじ目立つよりゴマスリに励む」

これらは文字にすると、誰もが笑いながら「非効率」「無意味」だと指摘することができてしまうけれども、実際に多くの企業で毎日毎日昭和の時代から変わらず行われている可能性が高いものです。

なぜ、分かっているけど変えられないのでしょうか。

この質問は冒頭の「この『やるべきこと』である『成長戦略』というものをやってこなかった」ことと全く同じ理由だと思われるのですが、それでもなぜか変えられないのがこの日本という国なのです。

その理由をかなり絶妙に分析しているニューヨークタイムズの記事の引用を本書より抜き出して終わりたいと思います。

「普通の国なら、少子化が進み、成長どころか後退し始めた経済、頼りにならない政府・・・となれば、ごみの散乱や路面の穴、デモの列などを想像するだろうが、まず見当たらない。この国は驚くほど安定しており、一体感が強く、差し迫った危機のような雰囲気はない。この平穏さは『しょうがない』という気質を反映している。これはある種の国民的なフレーズだ。日本人はかなり困った時にも、『しょうがない』とやりすごす。表面上は平穏で何も変わらず安定したように見える日本は、国連の調査では幸福度が低く、自殺は大きい問題だ。それでも、東京郊外で出会った男性(26)は『生活にかなり満足しています。日本人は生活が充実していれば満足なんです』と答えた。」

問題は、いつまで「生活にかなり満足しています。日本人は生活が充実していれば満足なんです」と言ってられるのかです。

「しょうがない」と言いつづけていたら、確実にどこかのタイミングで「どうしようもない」ことになってしまいます。

やはり、やるべきことを意識的にやるべきなんだろうと思います。

 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆