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ほんとうの日本経済

2024年12月18日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

少子高齢化による人口減少からくる日本経済の行く末に関するニュースに事欠かなくなって久しいですが、それらの多くが「絶望」もしくは、たまに「希望」といったいずれにしても「主観」によって世論を誘導するような内容になっているのが気になっていた中で「ほんとうの日本経済」という新書を読みました。

本書の冒頭には次のような意見が述べられています。

「近代で日本のような大きな経済規模を有する国において人口が持続的に減少した事例は他に類を見ない。この人口減が経済にどのような構造変化を及ぼすのかはこれまで必ずしも自明ではなかった。」

そこで著者がとった手法が、主に労働市場における「実際の統計データを用いた予測」というもので、これならば希望もしくは絶望といった主観を排除した「未来像」を見せてもらえるのではないかという期待をもって読ませていただきました。

では実際に、本書に書かれたその「未来像」を以下、端的にまとめてみたいと思います。

予想1:人手不足はますます深刻に

これまでの日本の労働市場では女性の労働参加が急速に拡大してきた。そしてそれはもはやその拡大に天井が見えるようになってきたことからも、今後は高齢者の労働参加に期待されるが、その拡大には健康面等からの制約が大きいというのは明白。そのため、今後の日本における人手不足は恒常化する以外考えられないという結論となる。

予想2:賃金はさらに上昇へ

人手不足を裏返せば、企業側の言い値での給与や労働時間で働いてくれる労働者がいなくなることを意味する。すると、自社の利益水準に関わらず賃金水準を先行的に引き上げて従業員を確保するよう労働市場から企業に強い圧力がかかっていくことになる。そこに気づいた企業は我先にと賃金を上げ、優秀な人手を囲い込もうとしていき、賃上げ競争が起こることは必至だ。

予想3:労働参加は限界まで拡大する

予想1の通りではあるが、一方で悪いことばかりでもない。人で不足が深刻化する将来においては、女性や高齢者でも比較的高い賃金で働ける可能性が高まるからだ。賃金水準が高まれば、働かずに余暇を過ごすことの機会費用が高まり、働いた方が得だと判断する人が増えることになる。このことによって、一部の資産かを除いた全ての人が労働市場に組み込まれていくことになるだろう。

予想4:人件費の高騰が企業利益を圧迫する

昨今の企業の内部留保が最大限に高められていることが問題視されるようになっているが、労働市場がひっ迫して賃金上昇圧力が強まっていけば、企業は株主への利益の還元圧力だけでなく、労働者への還元圧力によっても内部留保の圧縮を図る必要に迫られることになる。

予想5:資本による代替が進展する

持続的な賃金上昇は資本活用による省人化につながる。技術的に省人化が可能であったとしても、労働力のコストが低ければ、それを実装するモチベーションにつながらない。そうではなくて、新技術の現場への実装は、労働コストの負担増が企業に生産性の向上へのプレッシャーがかかることによって実現するといえる。

予想6:生産性が低い企業が市場から退出を迫られる

労働コストの負担増に悩みながらも省力化のための資本代替を進められない企業は退出を迫られ、生産性が高い企業への集約化が進むのは市場メカニズムの当然の結果といえる。

予想7:緩やかなインフレの定着

労働市場がひっ迫することで賃金水準が上昇した分、企業はそのコストを商品サービスに転嫁させざるを得なくなる。もちろん、予想5:資本による代替によってその一部はその結果起こるイノベーションによって吸収されるが、すべての領域でそれを達成することはできずに、その転嫁分を消費者が負担することになるため全体として緩やかなインフレが定着していくだろう。

予想8:優先順位の低いサービスの消失

物価上昇トレンドとなれば、消費者は否が応でも現在提供されているサービスに優先順位をつけ、それが低いものについてはあきらめざるを得なくなる。例えば、宅配の不在時の再配達など到底継続できるものではない。これからは、生産性上昇の努力が行われながら、本当に必要なサービスなのかを企業が厳選することで緩やかにサービス水準の質や量が低下していくことになる。(ただそれはあくまでも優先順位の低いものなので許容されるべきものと考える。)

今までの日本が抱えてきた「低成長」「デフレ」の問題は、企業にとって労働力がいくらでも安く手に入るために、低賃金によって企業の利益が上がりながらも、それを労働者に還元する必要性もなく、そのため生産性向上のためのイノベーション創出のために投資の必要性もなかったことから生じた、企業側の「甘え」によって生じていたと言えるのかもしれません。

しかし、「人口減少」による「労働市場の逼迫」が長らく続いたその日本の状況を大きく変えた結果、上記のような「未来像」が見えて来て、さらには次のような「最良のシナリオ」に行き着く可能性もあるという言及がありましたのでその部分を以下に要約します。

「今後日本の人口が減少していく中では世界経済における日本経済のプレゼンスが相対的に縮小していくことは避けられない。ただし、人口減少が経済全体の生産性の伸び悩みや生活水準の低下に必ずしもつながるとは限らない。いやむしろ人手不足の圧力が日本経済の高度化を促すシナリオだってありうる。」

考えてみれば、これだけ大規模の少子高齢化による人口減少を経験するのは日本が世界で最初の国であるということは、その問題に対する対処のノウハウが最も早い段階で確立するということでもあるわけです。

であれば、人口減少という運命にいつまでもぐずぐず消極的に対峙するという姿勢から、逆転の発想で前向きにその運命に身を投じる姿勢にいち早く切り替えるという覚悟が肝要かと思います。

 

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