アメリカはなぜ日本より豊かなのか?
2024年9月19日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
この夏、久しぶりに東南アジアへ行ってきて、日本円の弱さを体で理解したことから「弱い円の正体」を読むモチベーションとしました。
それに加え、同じく日本の弱さの原因を探るために役立ちそうな「アメリカはなぜ日本より豊かなのか?」という本を見つけ、読んでみました。
本書は、このブログでも何度か登場している一橋大学名誉教授の野口悠紀雄先生の最新刊です。
著者は、本書を書くにあたって現在の「円安」をはじめとするアメリカに対する日本の経済的劣勢がそのモチベーションになったわけではないようです。
それは彼がアメリカ留学をした50年以上も前の経験に端を発しているとのことです。
具体的には、カリフォルニアに留学中に国境を越えお隣のメキシコの町を見た時、地理的条件(気候や土地の肥沃さなど)が全く変わらないのに圧倒的な経済格差を目の当たりにしたこと。
また、日米の圧倒的な経済格差があった時代に、日本からアメリカの大学に留学して机を並べて学んだアメリカ人学生の能力と日本人である自身の能力を比べて決して劣ってはいないと自覚したこと。
地理的条件や国民の能力に差がないのに、国の豊かさになるとなぜこれほどの違いが生じてしまうのか、これが著者が50年間一貫して抱え続けてきた疑問であり、それを解明するのが彼のその後の人生だったと言います。
その解明結果を、結論から言ってしまえば、「異質なものへの寛容と多様性の容認がアメリカにあること」ということになるとのことです。
そして、このようなアメリカとの比較によって、日本の現在と将来を考えることが本書の目的です。
つきましては以下に、そのあたりの著者の考えがにじみ出ている部分を抽出(一部加筆修正)して、その答えとしたいと思います。
◆「アメリカは間違いなく『覇権国家(hegemon)』である。覇権国家である条件とは『寛容』であること、それは古代ローマ時代から続く歴史が証明している。したがって、現在の中国における習近平の強権政治を見ると中国は絶対に覇権国家にはなりえない。同じくそれを否定するのがドナルド・トランプであり、その意味で2024年の大統領選は要注意なのだ。」
◆「アメリカは単純に豊かな国というだけでなく、先端的な分野になればなるほど強くなる。(AI>IT>製薬)ちなみに、製薬はかつて開発に非常に長い期間と資金が必要なあまり効率的とは言えない産業だったが、これをAIの活用によって大幅に改善されることになり、もはや製薬は情報産業と呼ぶべき分野となっている。」
◆「米国の一人当たりGDPは日本の2.2倍。しかし、専門家の報酬を見るとそれは7.5倍になる。これは日本では高度専門家の教育体制ができないために、日本が古い経済産業構造から抜け出せないことが原因だ。」
◆「長らく続いた円安の意味(常識外れの低金利政策を延々と続けたこと)を考えることなく、ただただ円換算利益が大きくなることを歓迎し、その上に安住したことで、技術開発の努力を怠ったことも同じく原因だ。」
◆「日本株が上がっているのは日本が豊かになったことを意味するのではなく、所得分配が不平等になっていることを意味する。しかも、上がっていると言っても、35年前の水準にやっと戻ったに過ぎない。実際、米国ダウは1989年に2,753ドルだったものが2024年には38,751ドルで14倍になっているのに対し、日経は1989年に38,900円だったわけで、1倍ということになる。」
*この「所得分配が不平等」という部分が分かりにくいですが、これは株価の上昇で投資家の利益は上がったが、労働者の所得は下がっているということを意味していると私は解釈しました。そうだとすると、日本経済全体へのインパクトを考えたならば、投資家の数と労働者の数では後者のほうが圧倒的なわけで、株価が上がったことが豊かさを表すなどということは全くありえないということになります。(つまり、日本は労働力を安売りして企業利益を増やしただけ)
◆「生産性の上昇を伴わない賃金上昇は、長期の低金利による生産性の低い投資とともに、日本にとってのマイナスとなった。だからこそ、金融政策の正常化が必要なのだ。」
◆「賃金だけが他の経済変数から独立して上がることはない。また、賃金が経済成長をけん引するのではない。経済は新しい技術やビジネスモデルが新しい企業活動を実現し、経済成長する。その結果、賃金が上がるのだ。」
◆「したがって、FAXと押印をいまだに使い続ける日本において賃金が目覚ましく上昇することなどありえない。」
◆「日本企業が大学・大学院に教育を求めないのは、OJT方式をとってきたからだ。これは工業化時代の欧米へのキャッチアップの段階では非常にうまくいったが、情報化時代では、研究開発による創造性の競争が中心になるため、大学・大学院が高度教育を提供し、それを企業が求めるようにならなければ、完全にアウトだ。」
著者ご自身も、本書の中でおっしゃっていましたが、これらはすべて教科書に書かれているオーソドックスなことです。
しかしながら、それらを米国はやって、日本はやってこなかった。
このことが、「アメリカはなぜ日本より豊かなのか」の答えだということがよく分かりました。