キャッシュレス社会の新紙幣発行
2024年7月18日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
2024年7月3日、実に20年ぶりに新しいデザインの日本円紙幣が発行されました。
長らく日本のお金の「顔」であった福沢諭吉から日本の「資本主義の父」と言われる渋沢栄一に1万円札の肖像画が変わりました。
(五千円札は小説家の樋口一葉から教育者で津田塾大学創設者の津田梅子、千円札は医師・細菌学者の野口英世から同じく医師・細菌学者の北里柴三郎)
マスコミ報道では、例えば渋沢栄一の出身地である埼玉の深谷での盛り上がりなどを取り上げるなど「明るいニュース」として取り上げられるケースが多いと感じていますが、私個人の感想を正直に言えば、「なぜ今新紙幣?」という疑問しかありません。
そんな私の疑問(というか批判的見方)をバックアップしてくれるような記事が国際時事雑誌「クーリエ・ジャポン」に上がっていましたので要約の上引用します。
「デジタル時代においても現金を使う『自由』がいまだに好まれる日本において、この紙幣は勝利と考えられるべきものなのか? それとも、その後数年で倒産するレンタルビデオ屋の世界一楽しい支店をオープンさせるようなものなのか?日本のキャッシュレス化は、以前の予想よりも早く進んでいる。経済産業省によると、2010年、日本の消費者によるカードや電子マネー取引は全体のわずか13.2%で、2013年には15.3%と少ししか上昇しなかった。しかし、2023年には39.3%に達し、2025年までに40%という政府目標を大幅に上回る勢いである。ここからの道のりは、日本の人口動態と人口減少のなかで現金を使い続けることの経済学的な問題と関わってくる。近代日本における現金社会は、社会の安全性や犯罪率の低さなど、さまざまな要因によって維持されてきた。銀行と企業の間で大量の現金を安全かつ迅速に移動させられたのは、それに従事できる人材がかつてはたくさんいたからだ。その頃は比較的安価だったが、現在はそうではない。大量の現金自動預け払い機(ATM)の存在からは、日本では自動化が進んでいるかのように錯覚させられる。しかし、実際には機械に現金を補充し、維持するためにかなりの人手が必要だ。特に地方銀行は人手不足のためにオンラインバンキングに移行したがっている。人件費が高騰するいま、ATMの設置台数を減らしたがっているようだ。したがって、日本経済の縮小とともに、キャッシュレス化がさらに進むはずである。そうすれば、理屈上、小売やサービス業はコストをわずかに抑えられ、企業は値上げをせずに済む。本当に問題が深刻なのは、自動販売機だろう。交換せずに新紙幣に対応できる機械はほとんどない。対応するためには、人手もコストも必要だ。日本にたくさんある小規模な飲食店の経営を圧迫する。日本には現金が必要な自動販売機や発券機が390万台もある。労働力不足が深刻で、政府がキャッシュレス化を推進するこの国で実施するというのは、信じがたいことだ。新紙幣発行によって日本経済がどうなるか予測するのは非常に難しい。」
本書を読む前に、私が感じていた「疑問」は次のようなものです。
ペイペイすら一度も自分で使ったことがない私でも、日本にもキャッシュレスの時代が到来していることはひしひしと感じており、いずれは「紙幣」が消滅する運命にあることはなんとなく分かります。
おそらく、紙幣はそれまでの「つなぎ」の役割しか担わないだろうという理解です。
中国では、日本とは比較にならないほどキャッシュレスが浸透しているのですが、それは中国の紙幣の信頼性が低すぎるから一足飛びに紙幣をなくしてしまおうというのがそのモチベーションらしいのですが、幸せなことに日本の紙幣はどんな取引においても偽造の心配をする必要がないほど信頼性が高いためにそのモチベーションは持ち合わせてはいません。
そのため「つなぎ」の役割を担う時間は中国でのそれと比べたら長いだろうことは想像できます。
でも、それは偽造の心配をする必要がないほど信頼性が高い旧紙幣を継続的に使用する中で十分に足りる時間の長さでしょう。
私の「疑問」は、世界がキャッシュレスに向かう(日本も歩みは比較的遅いけれども確実に向かっている)中で、より信頼性の高い新紙幣をあえて圧倒的な社会的コストを覚悟して発行するべき理由が見つからなかったことから生じていました。
その意味でこの記事は、私の「疑問」をより一層大きくし、確実な批判意識に変えるものでした。
なぜなら、本記事の冒頭の「その後数年で倒産するレンタルビデオ屋の世界一楽しい支店をオープンさせるようなものなのか?」というメタファーが非常に秀逸で、私の「疑問」をまさに的確に言語化するものだったこと、そして、この記事を最後まで読んでもなるほどと納得できるような「理由」が何一つ挙げられることなく締めくくられていたからです。
もし、渋沢栄一翁が生きていたなら、この新紙幣発行をどう評価するか。
この点にものすごく興味があります。