コロナショックと昭和おじさん社会
2022年6月8日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
「河合薫」という著者の名前を聞いて聞き覚えのある方は少なくないと思います。
おそらく私たち以上の世代にとっては非常に懐かしくある意味アイドル的な存在だったはずです。
あの伝説的ニュースショー番組であった「ニュースステーション」で「お天気お姉さん」をされていたあの方が、「健康社会学者」として本書「コロナショックと昭和おじさん社会」を書かれました。
タイトルだけを見るとふざけた内容のように思われるかもしれませんが、実際には鋭い視点が光る素晴らしい内容になっています。
コロナショックによって、日本社会は本当に大変な状況下におかれ、さまざまな問題が噴出したわけですが、「コロナショック」というのは単なるきっかけにすぎず、これらの問題の根本的原因は、日本社会が世界的の現状を無視し続け、変わるべき時に変われなかったことにこそあるというのが著者の本書における主張です。
例えば、コロナショックによって極端な需要低迷が起こり、多くの労働者が解雇されたり休業させられたりしたわけですが、その際に多くの「非正規労働(派遣労働)者」は「雇用保険」による保障の対象にはならないという問題が起こりました。
まさに、著者の主張のように「コロナショック」はこの問題の「きっかけ」にすぎず、問題の根本原因は別にあることは明らかです。
また、私はこの問題は「非正規労働(派遣労働)者」の保障問題にとどまらず、現在の日本が抱える最大の経済問題ともいえる「低生産性」の根本原因でもあると著者の指摘を受けて思い至りました。
「非正規労働(派遣労働)の解禁」は小泉内閣時代に行われ、「終身雇用」「年功序列」といった日本固有の硬直的な労働慣行に風穴を開け、日本企業の生産性を向上させるために導入されたと考えられてきました。
しかし、それら日本独特の労働慣行こそが日本の生産性の低さの元凶であるとの認識であったのならば、それらを排除した上で、労働者間で差別のない「新しい労働の形」を構築する必要があったはずです。
ところが、当時の政権は既得権益の壁に阻まれ、それらを残したまま、「非正規労働(派遣労働)の解禁」をすることで、「不安定雇用」「継続的低賃金」といった「終身雇用」「年功序列」とは真逆の性質を持った労働の形を「並立」させ、その間の差別を生み出してしまったのです。
(そもそも、世界的には非正規労働に対する賃金単価は不安定雇用であることから正規雇用に比べて高く設定されるのが当たり前であり、日本の非正規労働は「不安定」に「低単価」を掛け合わせた全く理屈に合わない代物であると言えます。)
まさに「昭和おじさん社会」と「平成不安定社会」のパラレル社会を作り出してしまったことになります。
これでは、問題の根本解決がなされなかったばかりか、さらに質の悪い新たな制度を作りだしてしまったということになるわけで、まさに一重苦から二重苦への改悪以外のなにものでもないと言わざるを得ません。
もしあの時、小泉政権がそのスローガンである「聖域なき規制改革」を全うするべく、「終身雇用」「年功序列」の問題の本質に最後まで向き合っていれば、労働者と企業が「能力」と「適性」による健全なマッチングの機能を備えた仕組みを作ることで「生産性の向上」と、ミスマッチの解消がお互い自由にできる「流動的な労働市場」という「新しい労働の形」の両方を実現できたのではないかと思うわけです。
著者の指摘によってこの問題の深さを再認識させられました。
平成から令和に変わって早三年以上、いつになったらこの国は「昭和おじさん社会」と決別できるのでしょうか。