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スローで過剰な読書論

2025年2月3日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

久しぶりに、一橋大学の楠木教授の「戦略と経営についての論考」と「仕事と生活についての雑記」の二冊を立て続けに読み、その物事に対する考え方の深さと鋭さに触れ、改めて深い尊敬の念を抱かざるを得ませんでした。

楠木先生の著者の単行本は基本的に全てを読もうと決めており、発売と同時に購入するようにしていますが、購入したきり積読本の中に埋もれている先生の著作を偶然発見し、かなり分厚い本でしたがこれを機会に読んでみることにしました。

そのタイトルは「室内生活 スローで過剰な読書論」で、楠木先生の副業である「書評」を集めた本です。

「なぜ人は本を読むのか」

この深くて鋭い質問に対して著者は冒頭から明確な回答をしてくれています。

「読書はモノを日常的に考えるための最も効率的で効果的な手段だ。その本が本業と一見無関係なものであっても『考える』という行為が必ずついて回ることで本業に資する。(かなり大幅に手を加えることで抽象化しています)」

「書評集」という形式の本書は、著者が自ら選択した本を活用し「考え」をめぐらした結果、その考えの先に出現する「エッセンス」のようなものを読者に提供してくれ、私たち読者はそれを効率的効果的に手に入れることができる本当にお得な一冊だと心から感じました。

その選書眼とそこからエッセンスを引き出すセンスが最高に光っていると思った「イノベーション5つの原則」という本の書評のほんの一部を以下に大幅要約引用したいと思います。

「イノベーションを生み出すためには多様性がカギになると言われて久しい。しかし、多様性を確保すればイノベーションが出てくるという安直な誤解がまかり通っているのは問題だ。イノベーションのカギを握るのは多様性ではなく、その後にくる『統合』にこそイノベーション・マネジメントの本質がある。ゼロから一を作り出すものと一から千を作り出すという二つの創造性があるが、イノベーションは後者だと著者は言う。前者は実はそれほど難しいことではなく、イノベーションの困難性は後者が難しいことから生じている。例えば、テレビは1927年にフィロ・ファーンズワースによって発明たが、テレビ放送の仕組みを作り、消費者に向けた放送を始めたのはデビッド・サーノフでそれは1939年のことだった。彼は、テレビやカメラといった機械だけでなく、放送局、番組コンテンツを束ねた一つの産業を構築した。つまり、ファーンズワースが発明者でサーノフはイノベーターだった(すごいのはサーノフ)。トーマスエジソンが真の意味で巨大な存在だったのは彼の仕事の目的が発明にとどまらず、イノベーションを最初から射程に入れていたことだ。彼のすごさは、電球を発明しただけでなく、その後、送電システムによる電力の供給までを含めた仕組みづくりをGEに担わせたように、多くのアイデアをイノベーションまで昇華させる統合装置を合わせて生み出したことにある。」

このような含蓄あるネタが次から次へと提供される本書は一粒で二度おいしいどころか、一粒で百度おいしいのでした。