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デフレの正体

2018年9月23日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

まえがきの冒頭でいきなり著者自ら「この本は読んだ方がいい」と勧めるという荒業に、「どんだけ~」と思って読んでみることにしました。

読んだ結論から申し上げますと、「この本は読んだ方がいい」です。

というのも、2002年から2008年のリーマンショックまで続いた「戦後最長の好景気」や2012年から現在まで続いている「戦後2番目に長い好景気」という政府の発表と「実感が全く感じられない」という私たちの体感とが一致しない理由について非常によく分かる内容になっているからです。

ただ、本書の出版が2010年なので、実際に本の中で説明されているのは、2002年から2008年のリーマンショックまで続いた「戦後最長の好景気」までの事例にとどまっているのですが、その主張は、そのあと2012年から現在継続中の「戦後2番目に長い好景気」と私たちの実感との乖離についても完璧に説明できています。

著者は、失業率の少ない日本においては、「景気の波」での景況感の説明はできないと言います。その代りに、経済の景況感は「生産人口の多さ」で決まると言うのです。

日本では、終戦直後にベビーブームがありました。具体的には、戦後直後に出生数年間270万人程度が3年間続いたのです。

その結果としての800万人からなる団塊の世代の出現です。しかも、その後も3年間も200万人を超えています。

その後は、ほぼ一貫して出生数は減り続け、2017年には95万人を切っています。

つまり、この団塊の世代が大人になり、いわゆる生産人口となっていくことで、あらゆる経済需要を押し上げ、日本の高度経済成長を実現し、その後継続的に出生数は減っても、総数としての生産人口は増え続けることで、バブル経済を作り出しました。

継続的な出生数減少によってようやく生産人口総数が減少に転ずるのが、1990年代半ばです。バブルの崩壊はそれよりも早い1991年ですから、多少のタイムラグはありますが、そのタイミングはほぼ重なると言っていいと思います。

そこからは、ずっと一貫して生産人口は減少し続けるわけで、それが私たちがバブル崩壊以降一貫して感じている「デフレ」感と一致します。

以上が「私たちの実感」についての説明です。

ではなぜ、このような実感の中で、「戦後最長の好景気」や「戦後2番目に長い好景気」という発表がなされるのでしょうか。

それは、日本経済が輸出産業に立脚しており、バブル崩壊後も莫大な貿易黒字を生み出し続けているからです。

しかし、それならそこから得られる「企業利益」はどこに行ってしまっているのでしょうか。

先ほど述べたように、生産人口総数は減り続けていますし、しかも非正規雇用もかつてと比べて圧倒的に増えているため人件費が抑制されています。その代わりに企業は、海外移転や国内でも機械設備に投資をして、生産能力を維持しています。

そのため、企業としては労働力を豊富に活用して生産していた時に比べて、コストを抑制し、より多くの利益を生み出します。これが、現在の株高の理由です。

有効求人倍率は、分母の人数が減っているため好調な数値を示しますし、設備投資の増加や株高も形式的な景況感の判断にプラスの影響も与えることになります。

ただそうなれば、企業利益の結果としての配当が株主に還元されて、日本社会は潤うではないかということになりますが、その株を所有しているのは一部の高齢富裕層であり、彼らの金融資産が増えるだけで、そのお金が消費に回ることはほとんどないというわけです。

どうでしょうか。

私は、この二つの要素が、見事に「戦後最長の好景気」という政府の発表と「実感が全く感じられない」という私たちの体感とが一致しない理由を完全に説明していると感じました。

著者はこのように、非常に実感と理論をマッチさせながら説明するのが上手です。

しかも、想定される反対意見を必ずその説明に加えるのです。

例えば、この場合だと、仮に一部の高齢富裕層の金融資産が増えるだけだとしても、いずれはその資産は相続され、若い世代の消費に回るはずだというもっともな質問に対し、昨今は平均寿命が進んだことで、それを相続する子供世代もすでに高齢者となっているということで見事にその意見を論破しています。

非常に鮮やかな論理ではないでしょうか。

少なくとも、今まで聞いたどんな偉い学者さんの説明でも、この二つの矛盾について理解できなかったので、著者のこの説明によってすっきりとモヤが晴れた気持ちになったものですから、「この本は読んだ方がいい」と皆さんにお伝えすることにいたしました。

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