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両利きの経営

2021年2月17日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

今から5年ちかく前にハーバード大学のクレイトン・クリステンセン教授の書かれた「イノベーションのジレンマ」についての記事を書きました。

その記事の中で、「クリステンセン教授の(イノベーションに成功して大企業となった企業が次のイノベーションを排除してしまう宿命という)ジレンマの存在をこの世に知らしめたという功績とともに、そのジレンマからの脱出方法を紹介している」という記述を私自身しています。

ただ、本書では「ひとつの組織の中で『既存事業』とそれを脅かすような『新規事業』の両立を図ることは歴史的に不可能であることが明らかになっており、別組織を作り別の意思を持たせることが唯一の脱出方法だ」と記されており、その記述はあくまでも「教科書」的なものにとどまり、その具体例は残念ながらほとんど載っていませんでした。

この本がクリステンセン教授によって書かれてから20年の歳月がたち、その20年間におけるビジネスの歴史の中で、クリステンセン教授の指摘に反してそれを一つの組織の中でやってのける、すなわちまさに「両利き」を実現している企業の存在を紹介してくれているのが本書「両利きの経営」です。

今回は、その「両利き」を実現している企業として「アマゾン」をピックアップしてご紹介したいと思います。

アマゾンは、「ネットで物を売る企業」の代名詞として世界中の人々に認知されています。

最初は、ネットの強みを生かして、自社で在庫を持たずに非常に多品種の商品をサイト上に並べて注文が入ってからそれを購入して顧客に届けることで「ロングテール」を実現しました。

ですが、それでは時間もかかってしまい、そのサービスに慣れた顧客を満足させることがだんだんと難しくなっていきます。そこで、自前の倉庫設備に投資をして在庫を持つことを決断します。当然、今までのような低コスト構造の維持は難しくなります。ただ、それを顧客に100%転嫁することもできませんので、莫大な赤字を抱えながら投資を継続することになります。

赤字覚悟の大投資によって、財務は悲鳴をあげながらも、どの企業よりも優れた倉庫システムの構築がなされていきます。

そのようにして構築された優れたインフラを自分たちだけでなく、他の流通業者にも使用させ、使用料をとるようにします。その構築のためにかかったコストは固定費ですから、その利用企業が増えれば、それ自体が大きな売り上げを作っていき、次の投資に充てる資金もできていきます。

当然ですが、アマゾンはネットで物を売るために、倉庫だけではなくそのサイトの利便性の向上に対しても同じように大きな投資をしているので、マーケティング力も大いに高まります。そこで、倉庫物流だけでなく、オンライン販売という営業、それからそれらを運用する巨大なサーバー運用のノウハウ自体についても他の企業に対して開放することで使用料を取るようになります。

ここでも当然ですが、その構築コストは固定費ですので利用企業が増えれば、それ自体が大きな売り上げを作っていき、次の投資に充てる資金もできていくというあの流れになります。

このように見ていくと、アマゾンは最初のスタートである「ネットで物を売る企業」であるという自己規定をしていないということに気づきます。

そうではなくて、彼らは「顧客のあらゆる購買行動の決定に対して最良の選択肢を与える企業」であると自己規定しています。

このような抽象的で高次元の自己規定は、「既存事業」の完成を永遠に認めないということになります。その抽象的、高次元の目的にはどれだけ投資しても到達しきることはないからです。

考えてみれば、イノベーションのジレンマとは、自社の既存事業を「守る」ことを優先してしまう意識によって生じる問題なわけで、「守る」べき特定の事業など存在していなければ、そのジレンマから完全に開放されるというわけです。

事実、アマゾンは自社の「モノ」と競合する相手にも平気な顔をして自社のリソースを利用させ、そこから堂々とお金を取っているのですから。

そして、その資金をまたそのリソースの拡大・改善に再投資していくので、特定の「事業」を回すという姿勢では到底構築不可能な、「顧客に購買行動の選択肢を与える」仕組がどんどん成長していくのです。

こうなると、一つの企業としてのアマゾンがどれだけ大きくなろうとも、イノベーションのジレンマの生じるスキが存在しなくなります。

非常に、分かりやすい説明だと思いました。ただし、ここでもう一つの問題が生じます。

というのも、アマゾンのようなことをやってのけるためには財務のマネージメントを神業的に行う必要があります。実際に、アマゾンはそのあまりに大きな投資によって投資家との対立を何度も経験し、修羅場を乗り越えてきています。

ですから、イノベーションのジレンマを回避することの方法論として、アマゾンのような神業的事例をを出されても、それを真似ることはイノベーションのジレンマの回避と同等以上に難しいという、またもう一つのジレンマにはまってしまうからです。(笑)

 

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