代表ブログ

人生の経営戦略

2025年2月14日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

「ハズレがない」ビジネス本の著者として一橋大学の楠木先生を大尊敬申し上げていることはこのブログで何度も言ってきていることですが、楠木先生と同等に「ハズレがない」著者として独立研究者にして著作家の山口周氏についてもいくつかの本を紹介しながら取り上げてきました。

その山口氏が、「人生の経営戦略」というお得意の「経営戦略」の考え方を使って、「人生」のマネージメントを考えるという非常に面白い視点の本を出されましたので早速読んでみました。

何が面白いって、楠木先生の負けず劣らずの「世の中で一般的に当たり前として考えられていることの本質を捉えなおすことで新しい視点を提供する」能力が半端なく、その表現の仕方が今まで見たことがない唯一無二のものである点が非常に面白いのです。

以下に、その面白さが分かる著者の指摘を一つご紹介します。

本書では「人生というプロジェクトの長期目標」を「時間資本を適切に配分することで持続的なウェルビーイングの状態を築き上げ、何時余命宣告されても自分らしい、いい人生だったと思えるような人生を送る」に設定します。

それを実現するための戦略の検討において重要な点は次の三点。

①私たちがコントロールできる戦略変数は「時間資本」しかないこと。

②その「時間資本」をどのように上手に配分するのかということ。

③その長期目標の達成時期を「いつか」ではなく「いつも」に設定すること。つまり「持続的に」ということ。

スタート時点では一部の例外を除きほとんどの人が「時間資本」しか持っていません。したがってこのプロセスは、この時間資本をスキルや知識といった人的資本や信用や評判といった社会資本、そして物理的に人生を安定させるための金融資本に転換していくことで、最終的な目標である「持続的なウェブビーイング」を実現させるプロセスということになります。

この説明によって、①私たちがコントロールできる戦略変数は「時間資本」しかないこと、の意味は比較的分かりやすいと思います。

分かりにくいのは、②その「時間資本」をどのように上手に配分するのかということと、③ウェルビーイングの達成時期を「いつか」ではなく「いつも」に設定すること。つまり「持続的に」ということの意味です。

有り余る時間資本を上手に配分する、つまりできるだけ良い学びを得られるスジの良い「学習」や「仕事」に投下することで、時間資本を人的資本に転換するということも理解は難しくないのですが、著者の視点の面白さはここからです。

時間資本から転換された人的資本が蓄積していくことで高いアウトプットを生み出され、「あの人に仕事を頼みたい」という評判や信用、すなわち社会的資本に転換されますが、ここでポイントとなるのがこの社会的資本は、このように常に人的資本を経由することでしか生じず、時間資本から直接的に転換されることはないということです。

著者はここで、「異業種交流会」というものが本質的に「不毛」なイベントであると断罪しているのですが、自分の経験からしてもそれはその通りだなと思えます。(しかし言われてみないと確かに気づかない。)

同様のことが金融資本についても言えます。上の図の時間資本から社会資本と金融資本への矢印は破線で表され、人的資本から社会資本、社会的資本から金融資本への矢印のみが実線で表されています。

ここはもう少し説明が必要かもしれません。自分の収入を上げるためにスキルや資格を身に着けるという行為はまさに自分たちのスキルや知識を労働市場に認めさせようとするものですが、この際、取引の相手側である雇用者の意思決定を左右しているのは評判や信用といった社会資本であって人的資本ではないと著者は言うのです。

その理由は「人的資本は外から見えない」からで、彼らが意思決定で用いているのは学歴や職歴といった情報、つまり「人的資本を代理的に表明する記号」であって、人的資本そのものではないからです。

私たちが商品購入時に、その性能をつぶさに比較して購入するのではなく、そのメーカーの信用・知名度などを判断材料にしていることは明らかで、いくら無名の会社がスペックを詳細に説明したところで購入意思にほとんど影響を及ぼさないことでよく理解ができます。

ここまでは、②の配分の話です。最後に③ウェルビーイングの達成時期を「いつか」ではなく「いつも」に設定すること。つまり「持続的に」ということの意味を見ます。

人的資本と社会資本は、「仕事をする上で役に立つ資本」と「人生を豊かにしてくれる資本」の二つに分けられます。

例えば、会計やマーケティングのスキルやその評判は前者で、後者はピアノや絵画などのスキルということになり、「ウェルビーイングの実現」に関して言えば、前者はあくまで社会資本や金融資本の形成を通じて間接的に貢献するだけのものであるのに対し、後者はまさに直接的に貢献してくれるものです。

もちろん、これは人生の経営戦略において直接的に「ウェルビーイングの実現」に貢献する趣味などの「人生を豊かにしてくれる資本」の世界に全振りしましょうということではありません。なぜなら、それだけでは人生が立ち行かなくなる可能性が高いからです。

また、「人生を豊かにしてくれる資本」の形成を犠牲にしてまで「仕事をする上で役に立つ資本」に全振りするようなことがいいわけはありません。

「いつも」=持続的に「ウェルビーイングの実現」を実現するためには、以上のことをしっかり理解した上で、自らの人生の本当の意味での成功とは何かを自身の価値観に照らしたうえで定義するという「ゴールの設定」と、時間資本をスキルや知識といった人的資本や信用や評判といった社会資本、そして物理的に人生を安定させるための金融資本に転換していくという「プロセスの設計」の両方を間違えないで行うということが重要だということを理解しました。

 

◆この記事をチェックした方はこれらの記事もチェックしています◆