
企業経営における「安全性」の落とし穴
2026年9月15日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。
前回の記事では「最高の教訓」をご紹介しつつ、経営におけるもっとも避けるべき「倒産」というマイナス事象について詳しく見てきました。
今回は、本書において実際に取り上げられていた事例の中から、以前に「後継者不足時代の事業承継」という記事にて取り上げた大塚家具の事例(私的整理や法定整理に至らない時点でヤマダの買収を受け入れたので完全な「倒産」事例ではありませんが経営の行き詰まりという観点で取り上げられています)を取り上げます。
大塚家具の事例を取り上げたのは、その事例紹介の冒頭にて次のような説明があったからです。
「自己資本比率が高い会社は安全である。これは企業分析の初歩として、多くの人が教わる考え方です。自己資本比率、つまり総資産に対する自己資本の割合が高ければ、借入金等の負債への依存度が低く、財務的に安定している。そう理解されることが一般的です。しかし、自己資本比率が高くても経営が行き詰まる場合もあります。その代表例が大塚家具です。かつては高級家具市場をけん引し、財務指標の面でも一見すると『健全』に見えていた同社は、最終的にヤマダ電機の参加に入るという選択を余儀なくされました。なぜ、自己資本比率が高かったにもかかわらず、大塚家具は行き詰ったのでしょうか。」
本書では、大塚家具の事例を通じて、従来型の安全性分析が見落としがちな落とし穴と、キャッシュフロー計算書が持つ本当の意味をあきらかにされておりましたので、以下、重要部分を要約引用いたします。
(1)売上高および営業利益の推移

大塚家具は会員制と高級家具を軸に成長してきましたが、家具市場が低価格・大量販売へ移行する中で競争力が徐々に低下していきました。2001年12月期に売上高約712億〜730億円、営業利益が過去最高の約75.2億円を記録していたことを考えると確かに2010年代は売上高にして200億円のマイナス、営業利益は70億円のマイナスということで、「競争力の抜本的な見直し」が求められても仕方がない状況かもしれません。
そんな中、2015年にお家騒動ともいわれた創業者大塚勝久氏と娘の久美子氏の対立が生じ、代表権を掌握した久美子氏が会員制を撤廃してニトリやIKEAに対抗する大衆路線へ舵を切るという「競争力の抜本的な見直し」を図りました。
しかし、その後の売上高と営業利益の推移をみると、その見直しを図ったとたんに売上および営業利益が大幅減という結果となり、その見直しは大失敗という結果に終わりました。
結果的には、父である勝久氏の主張した従来からの会員制と高級家具路線の中での改善を図るべきだったことが証明されたということになります。
(2)企業の安全性の指標の推移
1.流動比率

2.自己資本比率

これらを見るに、確かにいずれも売上高・営業利益の状況と同様に低下傾向を示してはいますが、企業の安全性の指標であるこの二つの数値が、一般的に安全性が優良とされる流動比率150%と自己資本比率50%をそれぞれ大幅に超えており、「非常に安全性が高い」と評価される水準を維持しています。
しかし、本書はこの「流動比率」を求めるための要素である流動資産の中身を確認する必要があると指摘しています。
大塚家具の2018年12月期の流動資産の内訳は当座資産(現金・預金・受取手形・売掛金など)が39%に対して棚卸資産(商品)が61%で、即時現金化するのが難しい資産の割合が大きいというこの会社の特徴が見て取れます。
つまり、B/S(貸借対照表)における流動比率だけでもって大塚家具の安全性を判断することは難しいということになり、企業の「倒産」の一般的な概念である「企業が行き詰まり、弁済しなければならない債務が弁済できなくなった状態」なのかどうなのか、すなわち、お金の動きを明らかにする財務諸表であるキャッシュフロー計算書こそが、安全性の指標として最も重要ということになるのです。
(3)キャッシュフロー計算書の推移

キャッシュフロー計算書は次の3つもキャッシュのインとアウトの要素から成り立っています。
①営業活動によるCF
本業の営業活動から生じたCFで、売り上げを獲得した場合はプラス、一方で仕入れや給料などの支払いをした場合はマイナスになります。
②投資活動によるCF
設備の購入や資産の売却など投資活動から生じたCFで、不動産や有価証券を売ればプラス、逆に買えばマイナスになります。
③財務活動によるCF
資金の調達や返済などから生じたCFで、銀行借り入れをしたり株式で資金調達をしたりするとプラス、他方、借入を返済したり、自社株買いをしたりするとマイナスになります。
上図から分かることは、2016年12月期に現預金が110億円から39億円まで70億円近く減っているという事実です。
営業CF▲58億円、投資CF▲8億円と、ただでさえキャッシュの流出が多いのにもかかわらず、さらに財務CF▲5億円ものマイナスにして借入返済しています。
これは娘の久美子氏による「競争力の抜本的な見直し」を図ったタイミングで、営業体制を変え次期以降の巻き返しを図るために大きな営業コストをかけたことを大きく反映しています。
翌期の2017年になっても本業不振は続き営業CFも財務CFも引き続きマイナスとなり、資金がショートしないように有価証券などの資産を切り売りしてキャッシュをねん出することでそれらを補っていますが、一方で財務CFもマイナスということは同時に返済も進めており、まだ外部から資金調達をするほどには苦しくはなっていないことが分かります。
しかしながら、その後も本業は回復の兆しが見えず、そのマイナスを補填するためにさらに有価証券などの資産を切り売りしてキャッシュをねん出し、返済を続けていましたが、2018年12月期からは遂に財務CFが2億円のプラス、すなわち銀行借り入れに頼ることにしたことが分かります。
2019年12月、このような状況が続き、とうとう資産の切り売りによるキャッシュの捻出も限界に達し、何もしなければ「倒産」は免れない状況となったことから、遂にヤマダ電機から第三者割当増資(財務CFが65億円のプラスとなった)を受けてその傘下に入ることを決断し、「倒産」を免れることとなりました。
以上のように、企業の健全性を見る際にはB/Sの流動比率や自己資本比率に加えて、キャッシュフロー計算書を確認することが絶対に必要だということを本書はこの大塚家具の事例を用いて教えてくれています。









