基軸通貨を持つということ
2021年10月1日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
前回、「中国経済の属国ニッポン」という本をご紹介しましたが、その中で今まで当たり前のように理解していると思っていた概念が、実は一方的な理解にとどまっていたことに気づきました。
その概念とは「基軸通貨」です。
私は以前にこのブログでアメリカ留学時代のホストマザーの国際理解について以下のように少々批判的に書いたことがあります。
「私の下宿所のホストマザーは、心理学の博士号を持ったいわゆる知識人でしたが、私が食事中に言った『今日はドルが急に高くなったね』という発言に対して、『え?ドルが高くなるってどういう意味?』と真面目に質問をしてきました。ドルが、対外国通貨で値段が上下するという概念が存在していないということのようでした。」
このように、私は日本人としての自分は円ドル為替の変動を毎日ニュースで確認するのが当たり前なのに対し、アメリカ人がその意識が低いことをもって、大変恐縮ながら「無知」もしくは「非国際的」であるとしてそのことをアメリカの「弱点」と論じました。
もちろん、当時の私としてもそれは
「アメリカが世界中で最も経済的に成功した結果であり、否定するようなことではないのかもしれません。」
という認識は記事の中に書きつつも、ホストマザーが為替に対して「無知」であることを前提としてしまっていました。
しかし、本書を読んで、それは私が「基軸通貨」という概念をしっかり理解しない状況での、母国の通貨が基軸通貨ではない日本側からの一方的な見方であったのかもしれないと気づかされたのです。
以下に、本書より「基軸通貨」というものが一体どういう存在なのかが体感的に理解できる説明を引用したいと思います。
「米国は取引するすべての国に対して自国通貨であるドルでの支払いを行っているわけですが、これがもたらすパワーは想像以上に大きなものです。米国がドルで支払いをするということは、輸入するたびに各国にドルがばらまかれていることを意味します。ドルを受け取った各国の取引先は銀行にそのドルを持ち込み、自国通貨に両替しなければなりません。その時に企業に自国通貨を渡した銀行は大量の外貨であるドルを抱えることになります。そうなると米国の金融機関と取引をせざるを得なくなります。このようにして米国の金融機関は自動的に全世界に営業網を拡大できるのです。しかも、国際間の決済は一旦ドルで行われる(その後各国内で両替が行われるだけ)ので、それはドル資金を持っている米国の銀行による帳簿上の資金の移動に過ぎないのです。仮に米国の銀行がこの業務をやめてしまうと、世界各国の企業は送金業務ができなくなってしまいます。さらに言えば、米国の銀行がすべてのお金の動きを管理していることになり、米国政府は自国の銀行に対して取引停止を指示するだけで外国の銀行を潰すことができるのです。戦前までは、この立場は基軸通貨ポンドを持つ英国が保持していましたが、米国は第二次大戦後、友好国であるはずの英国からポンド覇権を奪い取りました。」
つまりは、私たち日本人にとっての国際送金は、日本円をアメリカに送って、米ドルに換えることであり、その際に「為替」が発生するのは当然のことですが、アメリカにとっては国際送金も「ドル資金を持っている米国の銀行による帳簿上の資金の移動」に過ぎないわけで、彼らが「為替」を意識する必要がないどころか、彼らにとっては「為替」は存在していないと理解すべきだということです。
(Mom, I am so sorry that I thought that you were ignorant about international finance at that time.)
また、この説明から「基軸通貨」は、絶対的な経済力を背景とした壮大なる「デファクトスタンダード」であるということが分かります。
そして、これがデファクトスタンダードだからこそ、その覇権はかつての米国が英国からそうしたように、経済力を蓄えることで「奪い取る」ことができることでもあるわけです。
前回見たように、今後の世界がアメリカ一強から米中欧の三極になるとしたら、中国は少なくともアジアでの「基軸通貨」を自国通貨である人民元にしようと動かないわけがありません。
その時の日本経済のかじ取りには本当に冷静沈着さが求められることは間違いありません。