
奈良時代の日本語の発音について
2025年6月12日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
前回ご紹介した「日本語の発音はどう変わってきたか」の中で解説されている各時代ごとの日本語の発音の特徴について今回から一つずつ取り上げていきたいと思います。
第一回目は「奈良時代」です。
以下に該当部分をまとめます。
万葉仮名分析を通じた古代語音声研究の進展によって、奈良時代には8つの母音があったことが判明しています。
このことについて以下具体的に見ていきます。
「コ」の万葉仮名には「古・湖・胡・己・許・去・虚」といくつもあって、基本的にそのうちのどれを使っても「コ」の音が表示できるはずである。しかし、実際には「箱(はこ)・婿(むこ)・子(こ)・越(こ)す」等の「コ」には「古・湖・胡」の類の万葉仮名だけを使い、「事(こと)・琴(こと)・心(こころ)・底(そこ)」等の「コ」には「己・許・去・虚」の類の万葉仮名だけを使って互いに侵さない関係を維持していた。
このような使い分けはオ段では「コ」以外に「ソ・ト・ノ・ヨ・ロ」と「ゴ・ゾ・ド」、イ段の「キ・ヒ・ミ」と「ギ・ビ」、エ段の「ケ・へ・メ」と「ゲ・ベ」にも見出される。
この排他的な用法から奈良時代には「イ・エ・オ」列の母音が2種類ずつ(*)あり、合計で8種類の母音があったことが割り出される。
*イは「イ」と「ヰ(現在の「イ」と「ウ」の中間のような発音)」の2つの音、エは「エ」と「ヱ(現在の「エ」と「ウ」の中間のような発音)」の2つの音、オは「オ」と「ヲ(現在の「オ」と「ウ」の中間のような発音)」の2つの音です。
また子音について。
ハ行ハヒフヘホの表示には「播・芳・破・方・半・泊(ハ)」「比・卑・必・非・悲(ヒ)」「布・不・敷・富(フ)」「辺・平・部・閉(ヘ)」「本・保・宝・褒(ホ)」等を用いる。これらのハ行仮名の中国中古音は、いずれも子音pやbのような発音に際して上下の唇を合わせた瞬間、破裂的に離す両唇破裂音である。
すなわち、奈良時代のハ行音は「パ(pa)」「ピ(pi)」「プ(pu )」「ぺ(pe)」「ポ(po)」に近かったということ。
一方で、現代語のハ行子音であるhの音を持つ漢字は、ハ行の万葉仮名に使われない。もし、奈良時代のハ行子音がhの音なら、中国中古音でhを持つ「昏・欣・訓・海・火」等の、たくさんの漢字がハ行仮名に使われないのは、現代にいたるまで日本の音読みでは、「昏(コン)(キン)(クン)・海(カイ)・火(カ)」のようにカ行で表されることに関係がある。
なぜなら、このことは、奈良時代当時の日本語にhの音が存在せず、隋唐のh音をカ行音kとして聞いた結果だからだ。
これは、現代の私たちが英語のviewを「ビュー」のように原音vをバ行音bで把握するのと同じである。つまり、kとhはvとbが似ているのと同じことだ。
これについては、少し前にこのブログ記事「聞こえるはずが聞こえない発音」で取り上げた内容からも実感として理解できました。