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弱い円の正体

2024年8月11日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

先日、コロナ禍を経て久しぶりに東南アジア(タイとマレーシア)に旅行することができました。

コロナ前にはフィリピンを中心に結構頻繁に東南アジアに渡航していましたが、どの国に行ったとしても、お金を使うたびになんとなく自分がお金持ちになったような気分になることができていました。

それが今回は、タクシーに乗るにも体感的には日本の2/3くらいの感覚、ホテルでの支払いに至ってはほぼ同一水準ではないかと感じることが多く、まさに「弱い円」を実感しました。(ちなみに、タクシーに関してはコロナ前とは一変しており、ライドシェア全盛となっており、Grabというアプリが大いに役に立ちました。)

このように、今回の旅行では、いままでのような「お得感」がほとんど感じられない、ただ、逆に言えばタクシーなどでのトラブルはほとんどなく、安心感の高い旅行となったという意味で、コロナ前の東南アジア旅行とは大きく異なる感覚のものになりました。

そんなわけで、帰国してすぐにこの「弱い円」についてしっかり調べようと選んだのが本書「弱い円の正体 仮面の黒字国・日本」です。

本書における著者の主張は、一般的な「円安」の議論が日米の「金利差」という単一の要因変数によりすぎているのではないかということです。

昔も今も、「円安」という現象(結果)は、複数ある要因が絡まって起こることであるけれども、貿易が中心だったかつての世界経済における為替の議論でいえば、その複数ある要因のうち「金利差」というものの存在感がとびぬけて高かったということであって、現在の状況を前提に議論をすれば、そこまで単純ではないだろうと。

もちろん、著者も当然ですが、今でも「金利差」がその要因の一つであることを否定してはいません。

事実、植田日銀総裁が積極的に金利を上げていくという判断をしたことによって、一か月前に160円程度であったのが2024年8月9日現在146円となり、10%も円高に振れました。

しかしながら、著者はこのような短期的な議論ではなく、長期的な議論(腐りにくい議論)を前提にするのであれば、「金利差」以外の要因で円ドル相場において存在感を増してきている要因を考慮に入れることが必要だと主張されています。

それが、「国際収支構造」に変化をもたらしている「新時代の赤字」という概念です。

この概念を理解するために、まず日本の「国際収支構造」の現状について確認してみましょう。

国際収支とは、①貿易収支 ②サービス収支 ③第一次所得収支 ④第二次所得収支 ⑤資本移転収支 ⑥金融収支 を合わせたもので、それぞれ

①貿易収支: 貿易、すなわち財貨の移動による収支。

②サービス収支: 財貨・人間の移動にかかる輸送料・旅行における宿泊・飲食などの収支・その他のサービス収支。

③第一次所得収支:対外債権債務からの支払・受領の収支。

④第二次所得収支:官民の無償援助・寄付等の授受の収支。

⑤資本移転収支:無償の資本の授受の収支

⑥金融収支:有償の資本(投資)の授受の収支

の合計収支のこと。そして、①~④までの合計を経常収支という。

少し前(2010年頃)までの日本は、①貿易収支は黒字、②サービス収支は赤字、③第一次所得収支は黒字、④第二次所得収支は赤字でその合計の経常収支は黒字、という構造でした。

それが、2011年以降、(サービス収支は一貫して赤字な上に)貿易収支が赤字の年と黒字の時が2年ごとに入れ替わったりしてきたが、いずれの年も経常収支は黒字、2021年と2023年は3年連続で赤字、2024年の見込みも赤字(赤字幅は縮小)と、4年連続の貿易赤字となりそうですが、いずれも経常収支は黒字、しかも今年は過去最高の経常黒字額となりそうとのこと

つまり、直近の日本経済は国際収支は、財サービスでの稼ぎ(現在の実力)では赤字で、過去の投資からの利息、すなわち「あがり」の部分(過去の遺産)が莫大な黒字であるために、差し引きで最終黒字を確保しているといった形です。

それでは、いよいよ日本の国際収支の状況における「新時代の赤字」という概念はいかなるものか見ていきましょう。

これは、サービス収支の中の「その他サービス収支」と呼ばれる項目の赤字で、2020年以降登場し、その後勢いを増しています。

この「その他サービス収支」を構成する項目は多岐にわたりますが、「通信・コンピューター情報サービス」「研究開発サービス」「専門・経営コンサルサービス」「技術・貿易関連・その他業務サービス」「知的財産権使用料」などの収支のことです。

GAFAMに象徴される米国の巨大IT企業のプラットフォームサービスやマッキンゼーなどの戦略系コンサルへの支払いなどです。

コンサルへの支払いは別にしても、アマゾンやアップルへの支払いなど、私個人としても最近になって身に覚えのあるものです。

これらが、2000年頃には2兆円程度の赤字であったものが、2023年には過去最高の6兆円近い赤字となっています。

これらを支払うためには当然ですが、円を売ってドルを買う必要があるわけで、これが増え続ければ、ドルの需要が高まり続けることになり、中長期的に「円安」は続いていかざるを得ないという意味で、「構造的な円安」は免れないということになります。

日銀が金利を上げることによって日米の「金利差」が縮まり、円を売ってドルを買う動きに歯止めがかかるということは中期的には実現できるかもしれません。

しかし、年を追うごとにアマゾンへの支払額が増えていく私自身の生活を見ただけでも、この「新時代の赤字」が解消されるということは絶望的に難しいように思えます。

私は本書の著者である唐鎌大輔氏の存在を今回はじめて知りましたが、また一人信頼できる経済関係者が増えた気がしています。

 

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