日本の分断
2022年6月29日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
前回、「老人支配国家日本の危機」という記事の最後に、「この絶望的な状況に直面している私たち日本人は、『人口減少は日本にとって最大にして唯一の課題です。』という著者の指摘を文字通りに受け止める必要があります。」と書きました。
まさにこの日本の課題は「世代間の不公平な犠牲の強(し)い方」による「日本の分断」からくるものだともいえると思います。
そこでこのことについてもう一歩踏み込んで考えるために、今ではもはや知らない人はいないであろう国際政治学者の三浦瑠璃氏のその名も「日本の分断」という本を読んでみました。
この本を読み始めた理由が上記の通りだったため、本書では「政治的分断」を批判的に書かれたものではないかという先入観がありましたが、実際にはその逆で、本書は意外にも「健全な政治的分断」についての書でありました。
以下に著者の「分断」に関する考えをまとめてみます。
まずアメリカを見てみます。
縦軸に社会保守と社会リベラル、横軸に経済保守と経済リベラルをとってその分布をみると、経済では完全にリベラル、社会では保守=共和党とリベラル=民主党にくっきり分かれており、経済に関する意見の相違はほとんど起こらず、もっぱら社会的に保守的かリベラルかの議論によって二大政党制が成立しています。
それに対して日本では見事に四象限にバランスよく分布しています。
その意味では日本の社会は万遍なく「分断」していると言え、保守を基本にしつつも党内に様々な主張を掲げる利益団体の後ろ盾を持つメンバーを抱える自民党が安定的に政権を担うということが繰り返されているというわけです。
もちろん、過去には「細川政権誕生」や「民主党の政権奪取」というような一時的な例外もありますが、基本的には「各種利権に誘導されながらも漸進的な成長を目指す与党自民党」VS「基本的には大きな政策の違いをアピールできない上に成長戦略が不足している野党」という構図がずっと支配的となっています。
以上が、著者の「日本の分断」に関する見方ですが、興味深いのは彼女がこの分断について批判的ではなく、むしろ積極的に評価しているところです。
以下、著者が「日本の分断」を評価する理由について生々しく解説されている部分を引用します。
「仮に人々が分断されず、属性と数の論理だけで集団の運営をしたら大変なことになる。政治は弱肉強食か、あるいは後先を考えない革命的な政策のどちらかに流れがちである。社会におけるいさかいのすべてを経済的対立の一点に還元すると危険な事象が起きやすい。毛沢東やポルポトの例を挙げるまでもなく、階級闘争に的を絞るような単純化された争いを阻んでくれるのは、政治的な争点としていくつかの価値観が人々を分断してくれているからである。」
つまり、冒頭の日本の課題の原因を「分断」に求めてしまうのは、「分断」の本質を私たちが理解していないからということになりそうです。
このように本書の主張は、私たちが「分断」の本質を理解した結果、「健全な分断」という民主主義の安全装置を確保した上で、この課題を解決する必要があるという非常に深いものでした。
今後ますます著者の主張に注目していきたいと思います。