
漢字の読みが日本と中国で異なる理由
2025年6月10日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
これまで「日本語の大疑問2」からテーマをいただいて書いてきましたが、第六回目の今回が最終回です。
最終回のテーマは「漢字の読みの日中における違い」についてです。
「漢字」は、もともと文字を持たなかった日本語が中国から輸入して日本語の体系の中に組み込んだということは誰もが知るところだと思いますので、その発音にも関連性はあるはずだと思われている方が多いのではないでしょうか。
では実際に見てみましょう。
例えば、日本語の「感謝(かんしゃ)」は中国語では「ガンシエ(gan xie)」というようにそこそこ似ているものもあれば、日本語の「学生(がくせい)」は中国語では「シュエション(xue sheng)」というように一見すると全く異なるものもあります。
そして、日本語の漢字の読み(音読み)には例えば、「行」をギョウ(呉音)コウ(漢音)アン(唐音)というように様々な音のバリエーションがあるのに対して、中国語は一つの漢字に対しては原則としては1種類しかないという点でも違っているようにも見えます。
このあたりの彼我の違いについて、分かりやすい解説が本書にありましたので以下該当部分を引用します。
「呉音は最初に日本にやってきた漢字音で、四書五経や仏教経典などとともに伝来しました。現在でも『修行(しゅぎょう)』『勤行(ごんぎょう)』のような仏教語でよく使われます。一方、漢音は奈良~平安時代初期に遣唐使等を通じて伝来しました。現在では『急行(きゅうこう)』『行動(こうどう)』といった日常語でよく使われます。唐音は鎌倉時代以降に禅宗を通じて伝来したもので、現在でも『行脚(あんぎゃ)』『行灯(あんどん)といった語として生きています。』」
このあたりまでは私もざっくりとではありますが知識として知っていました。
そして以下に続きます。
「以上の漢字音のうち呉音・漢音のもとになった中国語音が『中古音(ちゅうこおん)』(隋唐音)と呼ばれるもので、具体的には六朝時代~唐代(6~9世紀)の発音を指します。この中古(隋唐)音には(現代の北京語には存在しない)有声声母(濁音)や入声韻尾(-k -t -pで終わる音)が含まれていました。例えば『学』は『yak』という発音でこれが日本に伝来して『ガクという発音で定着しました。『日』は『nit/zit』だったのが、日本では『ニチ(呉音)/ジツ(漢音)』で定着しました。『-k -t 』という発音は日本語には存在しないので、母音を接続させて『-ク』『-チ』『-ツ』とすることで、日本語音化させたわけです。」
なるほど、ですがそうであるならばもともとの中国語の「yak」という発音と現在の中国語の「xue」という発音が違うのが解せません。
こちらについては以下に続きます。
「ところが、その後中国語側の音韻変化により、特に北方では有声声母(濁音)や入声韻尾(-k -t -pで終わる音)が消滅してしまいました。その結果、現在の北京語音では『学』が『シュエ(xue)』、『日』は『リー(ri)』という発音になっているのです。このように、中国語と日本の漢字音は元は同じ発音だったのが、日本では日本語音化し、中国でも音韻変化した結果、全く違うものになったというわけです。」
最後にこちらも引用しておきます。
「ところで、中国語には様々な方言があることをご存じですか。特に南方では、呉方言(浙江省、江蘇省、上海など)、粤(えつ)方言(広東省、香港、マカオなど)、客家(はっか)方言(広東省東部など)、閩(みん)方言(福建省など)といった方言が話されますが、これらは中国語中古音の性格を色濃く残しています。また、台湾で話される台湾語は閩(みん)方言の流れをくむもので、やはり中古(隋唐)音の性格を残しています。その発音を聞いてみると、『学生』は『ハックセン(hak seng)』、『新聞』は『シンブン(sin bun)』。そう、北京語に比べて、台湾語音は日本漢字音に近い関係にあることが分かります。ですから、中国語(北京語)を勉強していて『発音が難しい』と思ったら、台湾語や広東語、上海語などを合わせて勉強してみることをお勧めします。」
このように、これら二冊の解説は非常に分かりやすく、しかも日本語に関する疑問への回答だけではなく、英語や中国語に関する知識においても豊富な知識を与えてくれる有益なシリーズでした。