現代落語論
2020年9月18日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
私は「歯に衣着せぬ」物言いをする人は、どんな分野でも信用がおける可能性が高いと思っています。
政治家で言えば、橋下徹 元大阪府知事だったり、お笑いで言えば「ビートたけし」だったり。
もちろん、賛否両論、好き嫌いはあるかと思いますが、私はこの二人の言うことについての信頼性はかなり高いと思っています。
政治家とお笑い(噺家)の両方の顔をもって尚且つ「歯に衣着せぬ」物言いをした人に故 立川談志師匠がいました。
彼の場合、「歯に衣着せぬ」物言いどころか、参議院議員で沖縄開発庁政務次官だったとき、二日酔いで酒の匂いをぷんぷんさせながら、濃いサングラスをかけラッパズボンで記者会見に臨み、「公務と酒とどちらが大切なんですか」という記者の問いに対して「酒に決まってるだろ」と回答。
後の参議院決算委員会でこの問題が取り上げられても、本人は本業の寄席に出演してしまい、これがさらに問題を大きくし、最終的には就任僅か36日で辞任。
それでも、兼職をしてもいいと言われたから議員になったのであり、自分は大衆との接点を持ち続けるのが信条だとして最終的謝罪は一切しませんでした。
実は私、こんなあり得ないくらいの規格外人間の立川談志師匠に生前にお会いしたことがあります。
しかも、トイレで隣同士というシチュエーションで。
ランゲッジ・ヴィレッジのテレビ取材でお世話になった弟子の立川談笑さんの真打昇進パーティにお邪魔した時のことでした。
圧巻は、隣で用を足しながら、「こんなケチな場所に来るなんて、あんたも若いのに暇だね~」との一言。
どう反応していいか、非常に困った記憶があります。(笑)
そんな思い入れがある立川談志師匠が若干29歳で書いた「現代落語論」を遅ればせながら読みました。
全体を通じて印象的なのは、文章のリズムが軽快だということ。
まるで、落語を聞いているような小気味いい文章で、落語という私にとってあまり知識がない分野について書かれているのに、ページをめくるのが苦になりませんでした。
そして、もう一つの驚きは「分析的」視点のすごさです。
本書を書いたのがまだ20代というのが信じられないくらい、「落語」という伝統文化の塊のような対象をあらゆる角度から分析的にとらえています。
分析的にとらえるということは、落語という分野そのもの、そして本来絶対的権力者であるはずの師匠(子さん師匠)すら「客観視」しているということです。
しかも、それを「現代落語論」という一冊の書籍として出版してしまっているわけですから、その「客観視」の結果がその対象のお歴々の耳目に入っても一向にかまわないと思っているということですからよほどの自信がなければできないことです。
実際に次のような文章がいくつもさらっと書かれています。
「(落語の世界では基本的に親切な師匠でも一回半くらいしかやってくれない。)中でも桂三木助師匠は後にも先にも一回きりで、師匠の十八番を教わりに行ったとき、『私は一回で終わりだ。あとの分からないところは私の高座を聞いたり、自分で工夫してこしらえなさい。その方が演出力ができ、力がつく。』と言ったが、私の師匠の小さんに言わせると、『それはその相手によりけりで、やはり初めのうちはちゃんと師匠の思うとおりに教えた方が私は良いと思う、、、』と言ったが、私も師匠の意見に賛成だ。」
自分の直接の師匠である柳家小さん師匠に対してならともかく、その師匠を絡めながら桂三木助師匠に対しても、反対の意見を堂々と書籍に書くということをやってのけています。
おそらく、様々な方面から「生意気だ」「身の程知らず」といったような罵詈雑言を伴った批判が来ることを承知で確信犯的にそれを行ったのだと思われます。
後年、小さん師匠とは方針が合わないとして、落語立川流を設立したことで建前上、小さん師匠に「破門」されることになりますが、その後も何度か互いの芸に対する批判をしあったり、取っ組み合いの喧嘩をしたりしながらも、基本的には付き合いは続いたということで、これも規格外人間「立川談志」のなせる業と言えるのではないでしょうか。
29歳でそのことができるのであれば、39歳で「公務と酒とどちらが大切なんですか」という記者の問いに対して「酒に決まってるだろ」と回答するのもうなずけるというものです。