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睡眠の起源

2025年2月17日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

少し前に「休養学」という本をご紹介して、私たち日本人に足りないのは、「疲れたら休む」という本当に当たり前の行動だということに気づかされました。

そこで、その「休む」という行為の中でもおそらくもっとも重要だと思われる「睡眠」に関しての興味が湧いてきましたので、それに関する興味深い一冊を読んでみました。

それは、まだ25歳の大学院の学生さんでありながら、非常に興味深い研究分野の設定で非常に高い評価を得られている金谷啓之氏の「睡眠の起源」という本です。

ちなみに、著者の非常に興味深い研究分野とは「ヒドラ」というクラゲやイソギンチャクの仲間で「刺胞動物」と呼ばれる動物です。

彼らは、まるで植物が幹から枝をのばすように体の一部を出芽させたあと切り離して子供のヒドラを生み出します。しかし、必ず出芽によって増えるわけではなく、環境によっては身体の表面が徐々に盛り上がり、やがて白いボールのような卵で増えることもあります。

そして、著者にとってはここが一番重要なポイントですが、クラゲと同様に中枢神経系(脳)のようなものをもたず、体のあちこちに神経が一様に張り巡らされた「散在神経系」を持ちます。

このヒドラという動物を研究対象として、「睡眠の起源」を明らかにしようとしたことで著者の研究が大きな評価をされました。

というのも、一般に「睡眠」は私たち哺乳類を中心として少なくとも「脳」という中枢神経系を持つものだけに存在するという常識がある中で、このヒドラのような散在神経系を持つものも「睡眠」するのかを確かめるというものだったからです。

その際に重要なのは、「睡眠」の定義を確定することです。

著者はまず、「睡眠とは反応性の低下を伴った可逆的な行動静止の状態」というスイスの生理学者アイリーン・トブラーの定義を採用しました。(ちなみに、可逆的とは、外から刺激を加えると元に戻る、すなわち覚醒するということ。なぜそうなるのかといえば、自然界では睡眠による静止は無防備で非常にリスクが高い行為なのでこの可逆性が必要となるからと考えられている。)

この定義に照らしながらヒドラの遺伝子を詳しく分析する(実際にはヒドラの遺伝子をより実験しやすいショウジョウバエを使用して観察する)ことで、ヒドラの眠りのメカニズムがショウジョウバエ、ひいては哺乳類とも共通していることを明らかにされたのです。

なぜ、「ヒドラも眠る」という事実がそこまで重要なのでしょうか。

ヒドラとヒトは約6億年前に分化したことが分かっています。つまり、ヒドラが眠るとなると、その前の共通祖先も眠っていたことが分かり、「睡眠」という行為が、比較的新しい「脳」のような中枢神経系を持つ動物に特有なものではないことが明らかになるからです。

つまり、動物であればどんな神経系を持っていようとも一様に起き続けることができないのです。

その理由を著者は以下のように推測しまとめています。

「私たちは起きている間にいろいろなものが蓄積する。生きている間にはからだのあらゆる部分で疲れがたまり。(もちろん脳の疲れも蓄積する。遺伝子の発現が変わり、脳の中でシナプスが増大していく。起きている間に存在する意識は感情を伴い、それゆえ心理的ストレスが蓄積する。)睡眠とはなにか、それは起きている間に蓄積したものを解消する行為なのだろう。その実体はいまだ完全に解明されていない。だが起きている間に積み重なっていく借金はどこかで返済しなければならない。蓄積すれば脳や体の活動が損なわれるばかりだ。ならば、睡眠を改善することで日々の生活はもっと豊かになる。良い睡眠は覚醒を充実させ、良い人生へと導いてくれるはずだ。」

本書を読んで驚いたことは、著者の好奇心の大きさです。

それは著者に限らず多くの科学者がそうなのでしょう。そして、彼らの強烈な好奇心によって私たちの社会に豊かさをもたらしてくれているということがよく分かりました。

科学者の皆さんに心から感謝申し上げます。

 

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