小学校英語教科書の問題点
2020年4月17日 CATEGORY - 代表ブログ
皆さん、こんにちは。
このブログの記事でもかつて書きましたが、私の三人の子供は同級生、すなわち三つ子でこの四月から小学校5年生になります。
彼らは、同時に私がずっと導入に反対し続けてきた「小学校英語教科化」の第一期生となります。
ちょうど一年くらい前に「小学校英語の教科書」というタイトルで2020年4月から始まる教科化された小学校英語の教科書の検定が行われたことに対する記事を書きましたが、このことを考えれば考えるほど、なんとも皮肉なものだと感じざるを得ません。
ただ、制度としてスタートする以上、もう何を言っても仕方がありませんのでこの現実を受け入れ、子供たちから実際の教科書を見せてもらいました。
その上で、一年前の記事に書かれた検定教科書の概要を再び以下に引用しつつ、それぞれのポイントについてここがヘンだよと思われる小学校英語教科書の問題点を検証してみたいと思います。
「基礎的な英単語や日常会話などを、豊富なイラストを交えて教えるほか、「聞く」「話す」を重視し、能動的な授業を進めるための工夫がなされている。新学習指導要領は、小学校卒業までに600~700の英単語を学ぶとしている。大半の教科書は、自己紹介などで英語を聞き、話す体験によって興味を引く導入部を置き、アルファベットの読み方と書き方、曜日や月、動植物を示す名詞、「走る」といった動詞、形容詞を覚えていく構成とした。また、「私は~が好きです(できます)」などの基礎的な構文、「what」「who」を使った疑問形の作り方を紹介。料理の注文や道案内といった身近な場面を多用し、児童がたくさん話す機会を設けた。音声を聞いて、内容と合うイラストを選ぶなどリスニングの項目も多い。」
まずは、単語から見ていきます。
絵を多用した単語の紹介ページ
そして、私たち世代にも見覚えのある巻末の既出の単語リスト
これを小学5年生が与えられて英語が好きになる子がいるとはとても思えません。
一年前の記事に手引用した概要には、「アルファベットの読み方と書き方、曜日や月、動植物を示す名詞、『走る』といった動詞、形容詞を覚えていく」とありますが、単語が新出するページにも、巻末のリストにも「発音」に関する記述が全くありません。
これは簡単にスルーするわけにはいかない致命的な問題だと感じます。
というのも、これを教えるのが英語を教えることを前提とされていない小学校教諭の皆さんですから、彼らは英語の発音についての共通認識を持っていないのが普通でしょう。
ならば、少なくとも「発音記号」と音声データなどを活用して「発音」の基準に関する即席の研修を施すことで対処する必要があると思いますが、ここにその基準とすべき「発音」に関する情報は何も書かれていません。
となれば、おそらく現場ではもっとも回避すべき「カタカナ」を使った発音指導とならざるを得ないでしょう。
私は、百歩譲って「小学校英語」に意味を見出そうとするならば、まだ音声感覚が固まり切っていない小学生の感覚を最大限に活用した「発音」指導ぐらいしかないと思っていましたので、これは本当に残念なことです。
続いては、文法について。
これは、上記の概要の「『私は~が好きです(できます)』などの基礎的な構文、『what』『who』を使った疑問形の作り方を紹介。料理の注文や道案内といった身近な場面を多用し、児童がたくさん話す機会を設けた。」に相当する部分だと思います。
しかし、日本語でも文法概念の理解がきちんとできているとは言えない小学5年生にとっては、そもそも、「is」が動詞であることや「How」と「much」の関係などを理解することなど不可能です。
対話文を活用するということで、できる限り小学生には文法を意識させないという意図が見え隠れしますが、このような形では、極端な話、これを丸暗記させるような指導にならざるを得ないことを強く危惧します。
しかも、中学生に教えることよりも小学生に教えることの方がずっとレベルが上がるにもかかわらず、このレベルの高いタスクを英語を教えることを前提とされていない小学校教諭の皆さんに課すのですから、とんでもないことです。
そして、最後に指摘したいのはこちら。
後者「What do you like?」についてのものなら質問として問題ないかもしれませんが、前者「I go to school.」に至っては、このような全く文脈のない一文での唐突な質問は、言語教育の本質にあきらかに反する愚かなことです。
例えば、「I go to school.」が質問の答えだとして、その質問が「誰が学校に行くのか?」「あなたはどこに行くのか?」「あなたは何をするのか?」のいずれかによって、回答文の中で強調したい部分は変わってくるということを教えるべきではないでしょうか。
ともあれ、これはそもそも世界共通の言語ルールのはずですから、英語という教科の中ではなく国語で教えるべきことです。
これが、検定を通った教科書というのならば、もはや私は検定の必要性を大いに疑います。
実際に、このような教科書で英語の授業が進んでいくとすると、子供たちが一生懸命に頑張ろうとすればするほど英語の本質から外れ、むしろ「英語音痴」や「英語嫌い」を増やしてしまうことになってしまいます。
それらを回避するための唯一の手段として私が採れるのは、子供たちに「英語の成績がどんなに低くてもいいから決して気にしないことだよ」と言うことだけだと思っています。