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病原菌に敗れたアステカ文明

2021年9月1日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

以前ご紹介した人類の至宝と呼ばれる「銃・病原菌・鉄」よりテーマをいただいて書いていますが、第五回目のテーマも、「人類と病原菌」に引き続き「病原菌(病原体)」です。

「銃・病原菌・鉄」という本書の奇妙なタイトルは、現在の世界の状況が圧倒的にヨーロッパ人に有利な形で作られた決定的な要因をあげたものだということでした。

ただ、その奇妙なタイトルの中でも最も「奇妙さ」の程度が高いものが「病原菌」だと思います。

そこで今回は、この奇妙さを和らげるために「病原菌」がどのように現在の世界の状況をヨーロッパ人が有利な形で作るために役に立ったのか、その謎に迫ってみたいと思います。

以下、該当部分を引用します。

「コルテスがはじめに人口数百万人を誇り勇猛果敢な軍隊を要するアステカ帝国を攻めるために必要としたスペイン兵の数は600人だった。しかも、最終的に首都テノチティトランに達した後自軍のたった三分の二(400人)を失っただけで生き延び応戦しながら海岸へ戻ることができた。これはスペイン人の軍事力(鉄と銃)が優れ、アステカ人が当初は愚直だったからだ。だが、二度目にコルテスが猛攻撃を仕掛けた時はアステカ人はもはや愚直ではなく、いたるところで激しい戦いを挑んできた。結局、スペインの勝利を決定づけたのは軍事力ではなかった。一人の奴隷が1520年にメキシコにもたらした天然痘の大流行のおかげだ。この流行によって皇帝クイトラワクを含むアステカ帝国の人口のほぼ半分が死亡したからだ。」

このような結果は、スペイン人には免疫がすでに備わっていたのに対して、アステカは無防備だったということで理解ができるのですが、では逆にアメリカ大陸において既にアステカ人が免疫を持っている病原菌がスペイン人を襲うことがなかったのはなぜなのかという疑問が残ります。

というのも、病原菌の出発点は「家畜化・農耕」であり、その感染拡大の要因は「都市」による稠密化であったはずで、当時すでにアステカ帝国の首都テノチティトランは世界最高の人口密度を誇っていたことから、その二つの要素を備えたアステカ側からの病原菌がスペイン人を襲わなかった理由が必要になるからです。

その理由については、前回の「家畜」に関する記事で明らかにしたとおりです。

「アメリカ大陸に特有の集団感染症が登場しなかった理由は人間のかかる感染症の病原菌が何から変化したかという単純な疑問を自問してみればはっきりしてくる。ユーラシア大陸を起源とする病原菌は群居性の野生動物が家畜化されたときに、それらの動物がもっていた病原菌が変化して誕生したものだった。ユーラシア大陸には群居性の野生動物が何種類も生息していたのに対してアメリカ大陸には圧倒的に少なかった。すなわち、アメリカ大陸では人間がそれらの動物と物理的に触れ合うことがほとんどなかったということだ。」

以上のことから、本書は次のようにまとめています。

「非ヨーロッパ人がより優れた武器を持っていたことは事実である。より進歩した技術やより発達した政治機構を持っていたことも間違いない。しかし、そのことだけでは少数のヨーロッパ人が圧倒的な数の先住民を壊滅させ、取って代わった事実は説明できない。そのような結果になったのはヨーロッパ人が家畜との長い親交から免疫を持つようになった病原菌をとんでもない贈り物として進出地域の先住民に渡したからだった。」

新型コロナウィルスは、中国によって意図的に作り出され、世界に向けてばらまかれたとする「中国犯人説」のような眉唾物の仮説が世界中で意外に多くの共感を得てしまうという事実は、もしかしたらこのような「病原菌の歴史」を背景にしているのかもしれません。

 

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