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グレート・リセット

2021年12月15日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

本書「グレート・リセット ダボス会議で語られるアフターコロナの世界」の著者の一人である経済学者クラウス・シュワブ氏は世界経済フォーラム(日本ではダボス会議として有名)の創始者です。

彼は、経済成長最優先の新自由主義の考えに警鐘を鳴らし、企業は株主のみならず全ての利害関係者のために、長期的成長と繁栄を実現する使命があるとする「ステークホルダー尊重主義」のパイオニアと言われています。(ただ、私の中ではパイオニアは私の恩師村田和彦先生ですが。)

本書(の初版)は彼と世界経済フォーラムの運営などで協力するフランスの個人投資家ティエリ・マルレ氏によって新型コロナウィルスが世界中で蔓延が頂点に達していた2020年7月に緊急出版されました。

それは、現在進行形で悪化するコロナ危機の真っただ中で「果敢にも」パンデミックが収束した後の世界がどのような形になるのか、あるいはどうなるべきかについて「予測」したものです。

ここで「果敢にも」と書きましたが、このような本書の趣旨を見た時に真っ先に思い出すのが、一橋大学の楠木教授の著書「逆・タイムマシン経営論」です。

楠木教授は、「歴史を読み返すことによって、それぞれが現在進行形で起こっていたまさにその時に世の中がどのように考え、行動していたかを確認することで物事の本質を浮き彫りにする」ことで、当時の当事者(経営者や評論家)の多くが的を外した「ピエロ」のように見えてしまうことを明らかにしています。

それでも敢えてコロナ危機の真っただ中で本書(グレートリセット)を書いたお二人は「ピエロ」になってしまうリスクを十分に認識しながらも、今だからこそ書かなければならないというやむにやまれぬ気持ちがあったのだと思います。

以下に本書からお二人の印象深い主張をいくつか引用したいと思います。

「GDPそのものの考え方を一新する必要がある。具体的には、デジタル経済と無償労働がそれぞれ生み出す価値を加えなければならない。例えば、家事労働が価値計算に加えられていないことは長年の課題になっている一方で、逆に特定の金融商品はGDPの対象に含まれているが、実態は単に価値を一つの場所から違う場所に移し替えているだけであり、時には価値を壊しているとも言えるのだ。」

この世に後者のような仕事がどれだけ存在しているのか、私たちは一人一人が自分の胸に手を当てて、自分の労働が価値の創造に貢献しているのか真剣に考える必要があるということだと思います。

「このパンデミックは広く定着していた社会規範の多くを覆し、私たちに考え方を改める機会を提供している。私たちの幸福度はGDPで定義される富のレベルだけでは正確にはかれない。もし私たちがGDPに変わる『幸福度』により大きな影響を与える要素が他にあることを広く認識すれば、つまり、幸福かどうかを左右するものは物的消費の多さより、社会構造の安定性といった無形の要素だと気づけば、多くの人が環境を尊重し、節度のある食べ方を心掛け、他人に共感し、寛容にふるまうことにより、より大きな価値を見出し、これらが新しい社会規範の特徴になっていくかもしれない。」

そして本書はその最終章において、私たちに次のような積極的姿勢の必要性を突き付けています。

「10か月後の世界など誰にも分からない。これだけは分かっている。今行動を起こして社会をリセットしなければ、私たちの未来は深刻なダメージを受ける。それを避けるには、グレート・リセットに向けてすぐに行動を起こさなければならない。社会や経済が抱える根深い問題に対処せず、解決せずに放っておいたら、結局は、戦争や革命のような暴力的な出来事によって社会がリセットされる。それは歴史が証明するところだ。私たちには、勇気をもって難題に立ち向かう責任がある。パンデミックは『社会を省み、考え直し、リセットするという千載一遇のチャンス』を与えてくれたのだ。」

私は本書を主要先進国においては希望者のほぼすべてに少なくとも二回の接種が完了し感染者数が大幅に減少したタイミングで読みました。

つまり、完全なる逆・タイムマシーン的視点で本書を読めたことになります。

確かに執筆時点では、ワクチンの開発と実用化など世界のコロナ対応がここまで早く進むということはほとんど想定されていなかったわけで、本書の「予測」と「現実」のギャップという部分は否めない部分はあるかもしれません。

しかし、パンデミックが収束した後の世界が「どうなるべきか」という主張については、上記の通り「ピエロ」どころか、その認識の先見性に驚かされるものばかりでした。

 

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