日本人と英語

ヴァーサント(versant)受験体験記

2019年6月2日 CATEGORY - 日本人と英語

書籍紹介ブログにてご紹介した「超高速PDCA英語術」からいくつかテーマをいただいて議論をしていきたいと思いますが、第一回目のテーマは、本書の著者である三木雄信氏が運営する英会話コーチング塾「トライズ」さんが、その仕組みの中で英語力テストとして重要視している「ヴァーサント(versant)」についてです。

トライズさんは、多くの日本人が身に着けるべき英語力を英語を発信する力としてとらえ、その上達度合いを測定するテストとしては、TOEICは適切ではなく、このヴァーサントを使わなければならないという強い信念を持っています。

この考え方は、私が理事長を務める日本実用外国語研究所(JIPFL)が運営する「SEACTテスト」の開発理念と完全に一致するものです。

著者の次のような言葉がその理念を代弁してくれています。

「仮にある職場での業務が、高い棚に荷物の上げ下ろしをすることだとしましょう。この会社が社員に求めるのは棚に手が届くだけの背の高さなので、採用や配属の基準として『身長』を測定すればいいということになります。ところが時代は変わり、棚の下に自動昇降機が設置されたので、それに載れば背の低い人でも高い棚に手が届くようになりました。すると会社が社員に求めるものも変わります。身長ではなく、自動昇降機の重量制限を超えないだけの体重の軽さが求められるかもしれないのです。そうなれば会社は採用や配属の基準として『体重』を測定する必要が生じます。(TOEICを社員の英語能力の測定に利用している)今の日本企業がやっていることは、時代が変わったにもかかわらず、いまだに社員の身長だけを測り続けているようなものです。」

理念は一致しましたので、それでは実際にこのヴァーサント(versant)がそのような能力をしっかりと測定できる内容となっているのかを実際に確かめたいと思い、実際に受験してみました。

ヴァーサントはスマホを利用して受験し、24時間、365日受験可能です。つまり、これはスピーキングテストですが、実際の人間との対峙によって行われるのではなく、あくまでもコンピューターによってスピーキングという双方向性の能力を推定するというものです。

この点が、実際の人間による測定にこだわったSEACTテストとの大きな違いであり、今回受験することでその実効性を体感しようと思ったのです。

全体で試験時間は約20分、試験の内容と流れは以下のようなものでした。

1.  Reading (8問)・・・10語前後の8つの文章を書かれたとおりに音読する

時々比較的レベルの高い単語は出てきますが、基本的には基礎力がある人が落ち着いて臨めばそこまで心配するようなことはないように思います。

2. Repeating (16問)・・・5~15語程度の読まれた音声の文章をそのまま再現する

これは、個人的には非常に難しいと思いました。というのも、15語くらいの文章になると記憶力の問題にもなると思うからです。日本語でも正確に相手の言ったことを再現するのは難しいですから。その意味では、この問題を完答するためには英語力とは別の短期記憶を再現する特殊能力が必要だと言えると思います。

3. Questions (24問)・・・シンプルな質問に単語一つで答える

5~15語程度の読まれた音声の文章による質問に単語で答えます。しかも、内容的にはかなり突拍子もないものが多かったです。例えば、「飲みかけのミルクはどこにしまったらいい?→冷蔵庫」みたいな感じです。これも言語能力というより反射神経を問われているようにも感じました。

4. Sentence building (10問)・・・読まれる順序が整っていない単語を繋げて文章を作る

日本の受験によくあるような並べ替え問題を口頭で答える問題です。ほとんどの問題は簡単にできるものですが、中には少し長く混乱する問題が含まれていました。

5. Story retelling (3問)・・・読まれた問題の要約を自分の英語でまとめる

ストーリーが一度だけ読まれ、文章は画面に表示されません。そのあと自分の言葉でその内容を再現します。回答時間は30秒間です。問題としてはコミュニケーション能力を測定するのに適していると感じました。

6. Open questions (2問)・・・ある程度抽象的な事柄についての質問にまとまった英語で答える

質問は素早く2回読まれ、こちらも画面に文章は表示されません。回答時間は40秒です。これについても5.と同様、コミュニケーション能力を測定するのに適していると感じました。

問題の構成として、1.~4.についてはスピーキングテストの形式としてはあまりいただけないような気がします。その一方で、5.と6.については上記の通り、問題としてはコミュニケーション能力を測定するのに適していると感じました。

しかし、課題は問題そのものにあるのではなく、評価を人間ではなくコンピューターが行っているという点にあると思われます。特に、問題の形式としては望ましいとした5.と6.の結果をコンピューターがどこまで適切に評価できるかは、私たちにとっては全くのブラックボックスです。

にもかかわらず、1.~4.の問題の形式としてはスピーキングテストとして適切ではないと思われる部分をあえて存在させているのは、その部分をもってコンピューターが統計的に調整することで、全体としてバランスをとるような仕組みにしているのではないかと思われます。

様々なテスト結果を見比べたわけではないので何とも言えない部分はありますが、感覚的にはかなり信頼性が高いのではないかと感じられました。

しかも、これを24時間、365日受験可能で、SEACTテストの1/2くらいのコストで可能としているのですから驚くべきことだと思います。

実際に、SEACTテストを運営していて思うのは、その理想の実現と、その理想を多くの人たちに利用していただけるような規模の実現とを両立させることは至難の業だということです。

全く、発信力を把握することなく、受信二技能の結果だけを頼りに、コミュニケーション能力を統計的に推定しようとするTOEICを活用しようとすることに比べたら、このヴァーサント、かなりいい仕事をしていることは間違いありません。

 

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