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国運の分岐点

2020年1月22日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

このブログで以前にデービッド・アトキンソン氏の「新生産性立国論」をご紹介しながら、日本の生産性の低さについて非常に耳の痛い話をしました。

今回は、彼の「国運の分岐点」という新しい本を紹介しますが、前回以上に私たち日本人にとってもはや耳の痛さではすまない非常に危機感をあおられる内容になっています。

著者は、一般的に日本の生産性の低さの原因として、以下の要素があげられがちだと言います。

「女性活躍(の少なさ)」「最先端技術の導入(の遅さ)」「社員教育(の不足)」「解雇規制の緩和及び労働市場の流動性(の低さ)」などです。

しかし、著者はこれらは根本的な「原因」ではなく、「結果」に過ぎないと言います。そして、その「結果」の「原因」として日本に中小企業、しかも従業員数が極端に少ない企業の数が極端に多いことをあげています。

ただし、本書では今までの彼の著作と異なり、どうしても完全には納得がいく内容ではありませんでした。

なぜなら、著者ご自身も日本の中小企業の経営者の立場で、このように唐突に「中小企業悪者論」を示されたことで混乱してしまったというのが正直なところだからです。

しかも、今までの著作では一つ一つ丁寧に納得のいく説明がなされてきたのに、今回に関してはいろいろな問題を最終的にどうしても日本の「中小企業」の数の多さに結びつけようとする「こじつけ」感をどうしても感じざるを得ませんでした。

著者は、日本に中小企業の数が圧倒的に多い理由を日本政府の中小企業優遇策があまりにも大きすぎることをあげています。

そして、その最大の優遇策として「接待交際費」を年間800万円まで認められているとして、これが実質的に中小企業経営者の無駄な贅沢に消えていることをあげられ、このような優遇措置によって、中小企業は成長を敢えてせず、中小企業とどまる大きなモチベーションとなるとも述べられています。

私自身は中小企業の経営者の立場から、そのような無駄な経費を使うくらいだったら、もっと有益な経費の使い方を模索するのが当たり前だと思っているからです。

私は、自分自身が中小企業経営者としてこの制度をそこまで意識したこともありませんし、大企業に成長できるチャンスを敢えて排除するようなことも決してありません。

自分自身がそのような無駄な経費を使うくらいだったら、もっと有益な経費の使い方を模索するのが当たり前だと思っていますし、中小企業から大企業に成長できる能力と運が自社にないから、今できることを精一杯行う結果として中小企業であり続けていると考えます。

実際に私のみならず、中小企業経営者の多くはそのように考えているでしょう。

ですから、著者の日本における大企業と中小企業の存在意義に関する感覚は、私たち日本人の感覚とはかなり異なっていると思います。

大企業は著者が仰るように中小企業と比べて圧倒的に賃金が高いことは事実です。ですが、大企業がすべての活動を自分自身で行うことは不可能です。

日本では、「下請け」という形で、低コスト体質で小回りの利く中小企業の活躍によって大企業の世の中に出す商品サービスを生産する下支えをしているので、現在の価格で提供できています。

これをすべて大企業の従業員でということならば、価格は跳ね上がり、国際競争力は格段に下がってしまうので、結果的に大企業の海外移転は今よりも圧倒的に進んでしまうことになります。

ですから、日本が今まで「一億総中流」を実現できたのは、この「大企業」と「中小企業」のバランスによるところが大きかったと言ってもよいはずです。

つまり、大企業が賃金が高く(生産性が高く)、中小企業が賃金が低い(生産性が低い)というのは、事実であったとしても、それはそれぞれの企業の本分を果たした結果であり、大企業と中小企業はそれぞれの存在があってはじめてお互いが存在できるわけであって、すべてが大企業を目指すことは全体としてのバランスが取れなくなってしまうと思います。

ですが、今その「一億総中流」を維持できなくなってしまった状況が残念ながら出現してしまいました。

そして、その現状を打破するために「生産性革命」が必要ということは、著者に言われなくともその通りでしょう。

しかしながら、「生産性革命」実現のために「中小企業をなくして大企業を増やす」という手法をとることが本書における著者の主張です。

私はその主張には納得することができませんでした。そして、本書にはその私の気持ちを覆す決定打がなかったように思います。

繰り返しますが、これからの日本が経済規模を維持するためには「生産性革命」が必要不可欠であるという著者の主張は正しいことに間違いはありません。

ですので、そのための方策を私たちは模索し続けるしかないと思っています。

 

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