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多様性の科学

2021年10月29日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

前々回、前回と二度にわたってご紹介した「失敗の科学」の著者マシュー・サイドの新刊「多様性の科学」を読みました。

前二冊同様、非常に説得力の高い内容でした。

実はこの説得力の高さについては、本書を読む前にある程度予測はついていました。

なぜなら、彼は自身が以下のような実に多様性の高い人生を送っているからです。

「オックスフォード大学を首席で卒業後、卓球選手として全英チャンピオンに4回、オリンピックにも二度出場。BBCやCNNでリポーターやコメンテーターを務める。」

まず、本書はアメリカのCIAの話から始まります。

CIAではかつて「能力の高さと多様性は両立しない」という考え方が主流であり、アメリカで最も優秀な人材を集めていました。

結果、その構成員は白人でほとんどはアングロサクソン系かつ中・上流階級の出身者で一流大学の卒業生で固められていました。

このような「能力」を重視した結果、「多様性」が低下するという状況は、CIAに限らずアメリカいや全世界のメインストリームに共通するものだったはずです。

ところが、9.11が起きると、CIAはそれだけの人材を集めながらワールドトレードセンターや国防総省のビルに航空機で突っ込むなどという大胆な攻撃の危険性を把握すらできなかった事実をもって「無能」だと大批判にさらされることとなりました。

では、CIAは「能力」よりも「多様性」を重視したのであれば、9.11の悲劇を回避することができたのでしょうか。

本書を読むと、少なくともそれはCIAのように「複雑性」の高い課題に取り組む必要のある組織においては、その可能性は高くなるという結論を理解することができます。

そのことの理解のために著者が用意した話を以下に引用します。

「ある国の中心部に、村や畑にぐるりと囲まれた砦がある。つまり田園風景の中、いくつもの道がその砦へと通じている。敵の将軍はその砦の陥落を誓ったが、道にはそれぞ れ地雷が埋め込まれていることがわかった。どうやら人数の少ない小隊なら安全に通れるが、大軍が通れば地雷が爆発する仕組みになっているようだ。そこで敵の将軍は軍隊を少人数の部隊に分け、それぞれの道に配置した。そして号令をかけると、みな一斉に 砦に向かって行進を始めた。各部隊はそれぞれの道を進み、やがてみな同じ時間に到着。 敵の将軍は見事に砦を陥落した。」

これを読んだ後、それよりももっと分かりやすい事例を私はかつてこのブログで紹介していたことを思い出しました。

それは「働かないアリに意義がある」という記事にて紹介した「『働き者』や『お利口』な個体ばかりをそろえる組織より、ある程度『バカ』もいる組織の方が長期的、結果的には有利となる」という示唆でした。

まさに、CIAが「優秀さ」という一つの基準で人材集めをしたことは、このブログの中で指摘した「常にすべてのアリに全力で働くことをプログラムしてしまうと、突然セミの死骸(非常に大きな餌)がアリの巣の付近に現れるという僥倖に接した時、それを回収する要因を確保できなくなる」ことに相当しているというわけです。

ただし、このことがすべての組織にとって「多様性」が「画一性」に勝るということにつながるのかと結論付けることについては注意が必要かと思います。

その結論のポイントは「複雑性」です。

ビジネスの世界では、グローバル化によって全体として「複雑性」は高まっていることは確かですが、その程度は業界分野ごとに一様ではありません。

例えば、非常に環境が安定した業界において、その環境にマッチした「優秀さ」を持った人材の確保に成功している企業が、やみくもにその方針を「多様性」の確保に転向するというのは必ずしも正解とは言えないということです。

「多様性」は、自らが置かれた環境分析の結果、あくまでも「手段」として必要だと判断した場合に取り組むべき課題だという視点も持っておいて損はないように思います。

「多様性」を絶対視することは「多様性」に反しますから。(笑)

 

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