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失敗の科学

2021年10月27日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

前回ご紹介した「ビジョナリーカンパニーZERO」では、中小企業からスタートする起業家が「偉大な企業」を目指すにあたって重要なこととして、「失敗」を積極的な視点でとらえることを学びました。

また、失敗から学ぶという意味では、以前にご紹介した「失敗の本質」でもその重要性を確認していたところです。

そんな流れからもっと「失敗」について積極的に学びたいと思っていた矢先、「失敗の科学」という本に出合い、読みましたのでご紹介します。

失敗を積極的な視点でとらえ、それを宝にすることができれば、私たちが率いる組織を「偉大な企業」に近づけることができるというのが前著の指摘だったわけですが、本書は企業組織としてだけでなく業界としてそのことを行えている分野とそうでない分野を比べることでその重要性を教えてくれます。

まず、前者として航空業界、そして後者として医療業界の二つの実態を以下のように伝えています。

航空業界は、そもそも巨大な鉄の塊が高速で空を飛ぶという本質的に危険な分野であるわけで、1912年当時には米軍パイロットの14人に8人が事故で命を落としていた(50%)のに対し、現在(2013年)では3640万機が30億人の乗客を乗せて世界の空を飛ぶ中で死亡したのは210人のみ(0.000007%)となっています。

一方で、医療業界に目を移すと、2005年にイギリスにおいて医療過誤や設備の不備などによって10人に1人(10%)の患者が死亡または健康被害を受けており、フランスでは7人に1人(14%)という概算が出されています。

この違いを体感的に理解できるように言い換えれば、医療業界の事故頻度はボーイング747が毎日2機、必ず事故を起こしているのに等しく、あるいは2か月に一回「9.11事件」が起こっているのに等しいことになります。

どちらも非常に高度な安全管理が求められる二つの分野において、これほどまでのパフォーマンス差が生じる原因がまさに「失敗」に対する取り組みの根本的な違いにあるといえます。

以下に、その違いについての本書の説明を引用します。

まずは、航空業界について

「航空事故が起こると、航空会社とは独立した調査機関、パイロット組合、監督行政機関が事故機の残骸やその他さまざまな証拠をくまなく調査する。しかも事故の調査結果を民事訴訟で証拠として採用することは法的に禁じられているため、当事者としてもありのままを語りやすい。つまり、失敗は特定のパイロットを非難するきっかけにはならない。そのことが全てのパイロット、全ての航空会社、全ての監督機関にとって貴重な学習のチャンスとしている。また、事故だけでなくパイロットはニアミスなどの小さなミスに関しても報告書を提出するが、10日以内に提出すれば処罰されない決まりになっている。また設定した高度などを逸脱すると自動的にエラーレポートを送信するデータシステムが装備されている。そしてそのデータからは操縦士が特定されない仕組みだ。いずれ全データが中央集中データベースに送信されるようになれば将来的にはブラックボックスすら不要になるだろう。」

続いて、医療業界について

「西暦2世紀ギリシアの医学者ガレノスが血液を抜き取る排毒療法を開発してから19世紀まで、実に約1700年間にわたってこの欠陥のある治療法を続け多くの人を死なせてきた。また現代においても罹患した病気以外の何らかの原因で死亡した患者の家族が調査を依頼したとしても、『病院では調査はしないんです。唯一調査の義務が生じるのは裁判になった時だけです。』というのが常套句であり、医療業界ではずっとそうだった。これは医療業界には『完璧でないことは無能に等しい』という考え方があるからであり、失敗は脅威としてみなされているからだ。」

どちらも高度な安全管理が求められている点で共通する航空業界と医療業界では、本質的に失敗をゼロにすることができない「人間」が判断操作を行うという点でも共通しています。

その中で、前者は自らを「失敗を本質的におかすことが前提の存在」とした上でシステムを構築し、後者は自らを「完璧な(であるべき)存在」とした上でシステムを構築しているという違いがあります。

このように、システムの前提としての想定が違うだけで、あとは両者とも「優秀」な人間が「熱意」をもって判断操作をしていくという実態にほぼ変わりはありません。

しかし、その先にある成果には、実に140万倍以上の差が生じてしまっていることになります。

この差は、「優秀さ」や「熱意」といった量の多寡によるのではなく「失敗」を積極的な視点でみるか消極的な視点で見るかという「ベクトル(方向性)」によって生じていることは明らかです。

ならば、本書によって「優秀さ」や「熱意」に限りがある中小企業を「偉大な企業」に近づけるためには、この失敗に対する姿勢が最も重要な要素となるという前著「ビジョナリーカンパニーZERO」の説得力がより一層増すことは間違いありません。

 

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