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実はビルゲイツよりすごい日本人

2021年9月22日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

今回は前回ご紹介した「DXと何か」の著者である東京大学名誉教授の坂村健氏をご紹介したいと思います。

前回の記事では本の内容についてご紹介しましたが、著者の坂村教授についてはほとんど触れませんでした。その理由は、本書の著者をご紹介するためには丸まる一つの記事を使いたいと思ったからです。

というのも、実はこの方、もしかしたらコンピューターの世界においてあのビルゲイツよりも貢献度が高いすごい人かもしれないのです。

それでは、以下に本書からこのあたりのエピソードを引用しながら著者のすごさを確認したいと思います。

「TRONは機械の中に入れるリアルタイム組込み系OS、例えば車のエンジン制御や産業機械の制御、スマートフォンの通信制御などで使われる。ウィンドウズのような情報処理系のOSとは用途と基本構造が大きく違うものの、『オープン』の動きが日米でほぼ同じ時に始まったのは興味深い。組込み系OSは『現場』すなわち機械を相手とする操作が基本だ。製品の基本機能としてOSもアプリケーションも一体化しているため、情報処理系OSのようにOSが前面に出てこない。そのため、『有名』ではないが、例えばトヨタの自動車のエンジンで使われているものも、ヤマハの音楽楽器で使われているものも、JAXAの小惑星探査機『はやぶさ』で使われているのも、すべて我々のTRON系のリアルタイムOSなのだが、当然車を運転する時にTRONの知識は一切必要ない。TRONを知っていても車を上手に運転がうまくいくことにもならない。16ビット以上の組込み系コンピュータで60%ほどのシェアを持つにもかかわらず、一般に知られていない理由はそこにある。」

しかも、そのすごさは、次のようにマイクロソフトのウィンドウズを圧倒するものだと言います。

「PCのようなコンピュータ然としたコンピュータを一般の人は『コンピュータ』として意識し、組込機械の中身はコンピュータだとは思っていないかもしれない。しかし、利用されている台数比で言うと、情報処理系OSと組込系OSでは1:9とも言われており、台数ベースなら世界で最も使われているOSはウィンドウズではなく圧倒的にTRON系の組込みOSだったりする。」

ではなぜ、坂村教授は失礼ながらビルゲイツのようにお金持ちでも有名でもないのでしょう?

「私は1980年頃からTRONプロジェクトの構想を作りはじめ、電子関係メーカーで構成する業界団体、日本電子工業振興協会の中に研究会を作り、構成企業の若い技術者で議論を始めた。そして、開発のスタイルをオープンにして囲い込まず、やりたい人に入ってもらい、一緒にやろう!というものであった。何しろ当時コンピュータの開発には多額の資金が必要で、国のプロジェクトでないのだから工夫が必要と考えたからだ。米国にある世界最大のコンピュータ関係の学会IEEEとも組み、学界的要素を入れた全世界にオープンな新コンピューター開発プロジェクトとなった。このようにある意味草の根的に始めたプロジェクトだったため開発当初より『オープン』が旗印だった。しかし、実際に各社のマイコンへ実装する段になると、どうしても知的所有権の問題が複雑化してしまう。『標準OSは普及してこそ』なので、関連する技術仕様も実装した個々のプログラムは各社の製品としてよいとした。これが、当時の日本のメーカーを束ねられる唯一の策として私が考えた『オープンアーキテクチャ』という考え方だった。」

ビジネス(お金)的には、「クローズ」にして知的所有権を保護したいと考えがちですが、それだと著者の言うように多くのプレーヤーを束ねることができず、目標を達せられなくなる可能性は十分あったはずです。

とはいえ、私などはこれだけ大きな成功をおさめたプロダクトを完全な「オープン」にしてしまうというのは「もったいない」とどうしても感じてしまいます。

しかし、この気持ちこそが著者が考えた「オープンアーキテクチャ」という考えを理解しきれていない証拠だと言われそうです。

実際にこの考え方がうまくいき、TRONはリアルタイム性が必要とされる産業機械、携帯電話、またデジカメや電子楽器、プリンタなど広く組込コンピュータとして全世界で使われるようになっていきました。

ゲイツほどお金持ちでも有名でなくとも、自らのプロダクトがウィンドウズの10倍近く世の中に受け入れられ、確実に人々の生活を豊かにしていることを日々実感できるわけですから、著者は十分に報われていると思われているのかもしれません。

 

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