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感染症対人類の世界史

2020年5月18日 CATEGORY - 代表ブログ

皆さん、こんにちは。

いま世界は新型コロナウィルスの脅威に怯え切っています。

そして、この問題の深刻さはその先の見えなさに起因していると思います。

つまり、このウィルスが人類にとって未知なものだからこそ、前例に則った対策をとることができずにこの閉塞感が造成されているとも言えます。

しかし、人類は「天然痘」「ペスト」「スペイン風邪」等々、過去に幾度となく感染症との戦いを制してきました。

であれば、これらの戦いを振り返ってみれば、このコロナ禍を乗り越えるためのヒントを得られるはず。

そんな思いから「感染症対人類の世界史」というテーマで池上彰氏と増田ユリヤ氏の対談を収めた書籍が緊急発刊されましたのでご紹介します。

本書において私は二つの印象的な事実を知りました。

まず、いい意味で印象的な事実について。

それは、私たちが知っている歴史上の大変化の多くが実は「感染症」がきっかけで起こったという事実です。

日本の例で言えば、

「奈良時代の奈良の大仏の造立は当時天然痘の大流行を鎮めるために、聖武天皇が支持したものであるということ。そして、その後多くの人が亡くなり人口が減って耕作面積が少なくなると、当時国家から土地を与えられて生きている間だけ耕作し、税を納め、亡くなるとその土地を国家に返すという仕組みから、あの有名な『墾田永年私財法』が制定され、土地が個人の所有物として認められるようになった。」

西洋の例で言えば、

「14世紀にはそれまで教会の力によって、古代ローマやギリシャの多様性のある文化・芸術などを排除し、キリスト教という一神教の画一的な考え方を民衆は押し付けられていた状況であったところ、ペストの大流行が起こったのだが、これを鎮めることができなくなかったローマカトリック教会の影響力が急激に下がることで、いわゆる『ルネッサンス』が花開き、音楽・絵画・演劇・哲学・科学等あらゆる分野における多様性の復活及び発展がみられることとなった。」

つまり、これらは世の中の価値観の大変化を意味するわけであって、今回の新型コロナウィルスの終息後には、平時では到底実現できない大きな変革が実現される可能性があるということです。

続いて悪い意味で印象的な事実について。

それは、人類の感染症との戦いにおけるメンタリティが、これほど文明が発達したと思い込んでいる今でもほとんど変わっていないという事実でした。

以下に、その該当部分を引用します。

「14世紀にヨーロッパで起こったペストの大流行では、ユダヤ人への差別が強まります。彼らはキリスト教徒がつかないような仕事にしかつけず、住むところも限られていてユダヤ人同士で固まって住んでいました。ところがペストが流行ってもユダヤ人が住んでいる地区からは患者が出ない。これはきっとユダヤ人たちが何かしているのではないかという疑念が人々の間で生まれます。こういう疑心暗鬼が生まれる雰囲気は今と全く同じです。誰かを差別していると、差別している方もなんとなく後ろめたいんです。だから差別されている人たちがいつか自分たちに報復してくるのではないかという不安を常に抱えている。それで何かが起こるとすぐにこれは自分たちが攻撃されているのではないかという疑心暗鬼につながるのです。その意識が自分たちを守るといったゆがんだ過剰防衛の意識を生みます。しかし、実際はユダヤ人は当時ユダヤの教えにの取って生活環境を清潔にしていたのです。また彼らは猫を飼っていたのでペストを媒介するネズミが少なかった。当時は、ペストを媒介するノミがネズミによって運ばれることを知らなかったので、なぜユダヤ人はペストにかからないのかという思いにとらわれてユダヤ人たちの虐殺へとつながってしまいました。」

私は、現在の新型コロナウィルスの終息を何よりも望んでいますが、本書でのこの指摘と昨今の世の中の反応を見ると、その終息後に世界はそう簡単に平和になるとは思えないのです。

それはこのウィルスの発信源と思い込んでいる中国に対する世界の疑心暗鬼が強く残ると心配せざるを得ないからです。

トランプ大統領に至っては敢えて公式な場で「チャイニーズウィルス」という言葉を使用して、その疑心暗鬼を一層かきたてています。

しかし、少なくても今の時点でこのウィルスが中国が意図的に作成したという情報の正確性は確認されていません。

本書における上記の記述は、まさに感染症の蔓延時という緊急事態の時こそ、あらゆる情報の正確性を何よりも重要視し、それに基づく冷静な対処が何よりも大切だと言うことを私たちに伝えていると思います。

人間の歴史は繰り返すとは言いますが、このことは私たち人類が経験から学ばない愚かな動物であるということと同義でないことを今こそ示す時だと思います。